複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる ( No.20 )
- 日時: 2013/09/04 12:37
- 名前: 黒雪 (ID: oQpk3jY4)
金色の扉を開ければそこは別世界。このサロンは『癒し』をコンセプトに作られているため、極力日常生活を思い起こさせる要素は取り除いているからだ。
天井から垂れ下がり、キラキラと光を乱反射して輝くシャンデリア。そのシャンデリアがある天井には、鮮やかな色彩で真っ青な青空が描かれている。そんな青空の中には移りゆく四季折々の風景が、思わず溜息をついてしまうような美しさで描かれていた。
青空に浮かび上がる淡いピンク色の桜。桜の花びらが儚げに散った先には、濃く、深い色合いの海が輝き、真っ青な青空と水平線をどこまでも伸ばしていた。だんだん深くなっていく海の色の上には、いつしか真っ赤に燃える紅葉の葉が漂い、青が中心だった天井を赤く染め上げてゆく。だんだんと赤だけでなく黄や橙も混ざり、いつしかそこは海ではなく山の中へと舞台を変え、冬が来る。真っ白な雪の上に秋の名残を残すように赤い紅葉の葉が一枚。そして、いつしか雪の上には柔らかな黄緑の芽が顔を出し、いつしか殺風景だった山には草が多い茂る。山の頂上には大きな桜の大木があり……。
「この天井の絵っていつも来た時思うんですけど繋がってますよね。四季が展開していくっていうか」
「えぇ、この絵はキキョウが描いたものですよ。彼女、クラシックだけでなく絵画にも長けておりますから」
「凄いですねー。やっぱ『四天王』は他の人達と一味違いますよね」
「……あまりそのようなことを仰らないで下さい。他の従業員に申し訳ないではありませんか」
スイゼンがあまり申し訳なさそうな表情をしているようには見えなかったが、咲月は黙っていた。
おそらく内心はにやけているのだろう。しかし、それを表情に殆ど出さないのだから、流石は『氷鏡の静謐』といったところだろう。
「では、咲月様。『地下一階』へのご案内になります。そういえば指名は何方になさいますか? いつも指名をされているサクラは生憎、手が離せない状況なのですが」
「えっ! サクラさん今手が離せないんですか? ……じゃあキキョウさんで」
「畏まりました。それでは、こちらのテーブルでお待ちくださいませ。私の予想が正しければ、あと20秒で来るはずですが」
銀鎖の懐中時計を胸ポケットから出し、計ること21秒。ゆったりとした足取りでキキョウがテーブルの前に現れた。
「ご指名に預かり光栄ですわ、咲月様。本日はどのような音楽をおかけいたしましょう?」