複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 第三遍 第四幕解禁 ( No.29 )
- 日時: 2013/01/18 23:28
- 名前: 黒雪 (ID: J7WKW5tb)
一章 第四遍 第二幕
顔を上げると、すぐ近くに『四天王』の1人、神楽葵の横顔があった。膝の辺りを右手で、腰の辺りを左手で支えられて、咲月の体が宙に浮かんでいるということは——。
「お姫様抱っこ!?」
「嫌でございますか? 咲月様」
悪魔のように傲慢な笑みを浮かべたアオイが、意地悪く言葉を返しす。
「少々階段でお疲れのように見えたので。まさか歩けないとは思っておりませんが、『Traum Morgen』の使用にあたって、疲労が溜まりすぎていても影響を及ぼしかねませんからねぇ。でも、嫌そうにはこれっぽっちも見えませんが」
「絶対歩けないと思っていましたよね、絶対。いいから下ろしてください。このぐらい自分で歩けますー」
「それなら仕方ありませんね」
少し不機嫌そうに言いながらもアオイがお姫様抱っこをやめて、咲月のことを床の上に立たせた——が。やはり、階段のダメージはとても大きかったようだ。立っていられたのは5秒ほどで、またすぐに床に座り込んでしまう。
「やれやれ、ですね。素直に抱っこされていれば良いものを。本当に、歩けないようですので遠慮なく」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべたアオイの腕の中に、再び包み込まれてしまった咲月はもはや、顔を赤らめて黙っている他無かった。
しかし、アオイは天性のサド。そんな様子の咲月を黙ってみている訳が無い——それは咲月に限らず他の客でも同じことだが。その性格と人柄に惹かれる女性客は後を絶たず、火遊びを目的として指名する客も少なくは無い。だが、アオイと夜の町へ消えていった客がサロンに現れることは二度とない。
客が何故、サロンを訪れないのか。その答えは『灼熱のギムレット』のみぞ知る——。
「ところで、咲月様。お顔が少々赤いようですが大丈夫でしょうか? 熱がおありなら、氷で冷やしたり致しますが」
「べ、別に熱は無いです。顔も赤くなんかありません」
ますます顔が赤くなる咲月を楽しげに見るアオイ。本来ならもっとからかっている所だが、残念なことに『Traum Morgen』の使用室の扉が前方に控えていた。
白を基調とした地下16階のフロアの中に1つだけ現れ出た、こげ茶の重々しい扉。それは来た者を寄せ付けないどころか、自らが来訪するものを拒んでいるようにも思える。
——その扉が、開けられた。