複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる 第四遍 第一幕解禁 ( No.31 )
日時: 2013/08/10 14:58
名前: 黒雪 (ID: 9x5zc166)

一章 第四遍 第三幕




「夢の中へとご案内致します。貴方が望む夢は何でしょうか。快楽、欲望。それとも罪の意識ですか? ただし、お気を付けくださいませ。——夢という名の快楽に囚われることの無きように」

 アオイが、『Traum Morgen』を使用する前に必ず言っている台詞を言う。咲月がこの台詞を初めて聞いた時から、言葉に秘められた不吉な雰囲気は全く変わっていない。美麗な世界へと誘う一方、一度踏み入れたら二度と戻れない。そんな警告を静かに、ゆっくりとアオイは発音する。
 重たい扉を潜り抜けると、まるで何処かの牢獄のような印象を醸し出す、狭い部屋が現れた。部屋の真ん中には白いベッドが1つ。しかし、ただのベッドではない。これこそが死刑制度のみならず、実刑をも無くした『Traum Morgen』。
 布団の中に機械が内蔵してあり、使用者の脳に働きかけて見せたい夢を見せる。機械は管理人——『四天王』の4人が持つ端末にのみ反応し、端末を操作することで夢を操作できる仕組みとなっている。
 実刑の代わりとして使用されるときは、使用者が犯した罪をそのまま体験させるが、咲月は客。客が使用する時は、見たい夢のキーワードを幾つか上げてもらい、後は機械が脳に働きかける。脳にそのキーワードを送ることで、それらを使用した夢が勝手に出来上がるのだ。

「キーワードは『光』、『実験』、『友達』、『別れ』」
「畏まりました。目が覚めたら、このインカムでお知らせください。サクラが参ります。——それでは良い夢を」

 カツカツと足音を響かせてアオイが部屋を去る。足音と共に聞こえる風の音は何を示しているのだろう。悲しみか、喜びか。
 咲月を取り巻いていた音もやがては消え、静寂が訪れた。目の前を支配するのは暗闇。
——違う。眩いばかりの光だ。