複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 最新話保留解禁 ( No.34 )
- 日時: 2013/01/18 23:30
- 名前: 黒雪 (ID: J7WKW5tb)
一章 第五遍 第一幕
光につられて咲月は、私は目を開いた。
私は、石の敷き詰められた道に立っていた。いつから立っている? 何故立っている? そんなの分からない。でも立っている。
改めて自分を見ると、足枷をつけられてその場から1歩も動けないことが分かった。錆ひとつ無く、艶々と黒光りしている足枷は、つい最近つけられたものだろう。
視線を周りに向けてみた。石畳のだだっ広い道。道は何処に続いているのだろうか。何処から続いているのだろうか。道の両端は何も無いのか、白いもやがかかっている様にただ、白い空間が広がっていた。道には何も無い。人も居ないし、所々割れている石の隙間からは草さえも生えていない。
何故自分はここに居るのだろう。ぼんやりと考えている内に、視線が上を向く。
——カチリ。時計の長針が1分進んだ。カチリ。また進んだ。
真上に合ったのは、巨大な時計の文字盤。文字盤は目を瞬時に奪われ、二度と視線を外せないと思ってしまうほど美しかった。
淡いピンク色の細い線で描かれたたくさんの花々と、力強く緑や黄緑、茶色で描かれた草木。それらはとても繊細で、描き出された模様には1mmの狂いもない。時を示す数字は金色の線で縁取られ、ローマ数字がキラキラと輝きを放っていた。
それらはとても美しい。だが、歪んでいる。
真上にあるのは確かに時計の文字盤で、数字のⅠ(1)、Ⅱ(2)の辺りは普通に見えた。でもⅢ(3)、Ⅳ(4)、Ⅴ(5)と視線を移していくと、だんだん数字が縦長になる。文字盤が自分の事を飲み込んでしまうかのように曲線を描き、自分の足元へと続いているのに気づくまで、さほど時間はかからなかった。
同時に、あることにも気が付く。私が、今いるこの道。
これは、時計の短針だということにも。そして、時計の長針と短針は1時間に必ず、1回重なり合うということに。
長針と短針が重なり合ったら、ここにいる私はどうなるのだろう。
何も無いに越したことはない。でも、ピッタリと隙間無く重なったら? この短針が消滅してしまったりして。それなら、まだ良い方だろう。最悪、私が消滅しかねない。
そんな想像が次第に膨れ上がっていくにつれ、不安が心を支配する。しかし、そんな心の中とは反対に私の周囲からは、白いもやが晴れていった。
頭が冴え渡るかのようにはっきりと。