複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 最新話保留解禁 ( No.35 )
- 日時: 2012/12/27 15:04
- 名前: 黒雪 (ID: qF9RkhdN)
一章 第五遍 第二幕
白いもやが晴れると、そこに見えたのはたくさんの人々だった。みんなお揃いの仮面をかぶって、ドレスやタキシードを着て。まるで舞踏会みたい。そんなことを思っていられたのも束の間。
私に、その中の1人が近づいてきた。
「これはこれはお嬢様——いや『元』お嬢様、と言った方が正しいかな? ご機嫌麗しゅう。そこで鎖に繋がれて、実験台にされる気分はいかがでしょうか」
丁寧な口調だが、棘がたくさん含まれた言葉を吐いてきた男性。黒と紫を基調とした、どこか邪悪な雰囲気を醸し出す衣装はまるで上流階級の闇みたいで。黒縁眼鏡の奥から鋭く光る眼光は、獲物を見つけた肉食獣のように咲月を捕らえて離さない。
私、この人のこと知らないのに。
「私はお嬢様でもなんでもないわ、ただの大学生。一般家庭で生まれて育った。なぜ私のことをお嬢様と呼ぶの? それに……実験台って何ですか、矢川さん」
知らないはずなのに口は勝手に動き、言葉のやり取りを成立させようとする。
矢川さん。記憶を必死に掘り返しても、その名前と顔は現れない。初対面のはずなのに、懐かしく感じる。でも会ったことは無いはず。だって私、物覚えは良い方だから、1回会った人なら忘れないはずだもの。
「君は覚えていないのかい? 父親の顔を。一般家庭で育ったのは正解、でも生まれは上流階級だ。母親に聞くがいい」
「父は私が生まれる前に他界したと、母から聞いています。私はお嬢様なんかじゃない。それよりも、質問に答えてください。実験台って何ですか? それと……以前、お会いしたことがありますか」
矢川さんは私の過去の記憶を——いや、過去だと思っていた記憶を塗り替えようとしているのだろうか。私はただの、どこにでもいる大学生でしかないのに、何故。
こんなにも動揺が心を駆け巡るのだろうか。
私の問いかけに彼は、失笑を漏らすと答えてくれた。
「『Traum Morgen』の使用データは好星企業で厳重に管理されている。データは受刑者のみではなく、君のようなサロンの特別客も例外ではない。君が『Traum Morgen』を使用することによってどんな夢を見たか、それによってどんな影響が現実世界に起こっているのか。それらは全て、四天王の4人によって調査される。その使用者の中でも、君の見る夢は大変興味をそそられる夢でねぇ。我々にとっても非常に良い、実験材料になるんだ」