複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 最新話保留解禁 ( No.36 )
- 日時: 2013/01/01 01:12
- 名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: YyD.HMoh)
一章 第五遍 第三幕
私は2年前に大学生になって、それまでは地方の田舎でずっと暮らしてた。私が初めて東京に来たときに、偶然、有名になる前のサロン、『Dream Prison』を見つけて訪れた。『Traum Morgen』を利用し始めたのは1年半前で、それ以降はまだ3回しか使っていなくて、今回が4回目。
なのにどうして実験台になっているのだろう。
そして、矢川さんの言葉は続く。
「会ったことは3度ある。ただ、現実世界で会ったことは一度もない。3回とも、今日を入れれば4回とも、夢の中での出会いだ。君と、君のお友達と、私。いつも3人で会っていたよ」
「そんな……これが夢だって言うの? だって、こんなにはっきり話しているんですよ」
「これが夢だという証拠は、これが現実だという証拠にもなる。ここは好星企業の夢見研究所だ。この研究所が現実に存在していないわけではないだろう?」
それではここが夢の中ではなくて、現実だと告げているようにしか聞こえないし、なにより矢川さんの言った言葉の意味が解らない。
現実世界に夢見研究所があって、そこに今、私が居る。それは良く分かった。でも、なぜ夢だというのだろう。
ここに来るまでの経緯を記憶の中で必死に辿って見るけれど、空白があるみたいに思い出せない。
空白の前の記憶は何? 聖翔大学のカフェテリアで小説の設定を考えていて。それから私はどうしたの?
記憶の空白は強い光となって、私の周りを照らし出す。最初は薄暗くて弱い光だったけれど、どんどん強くなって、目も開けていられないぐらい強く眩しくなって——。
世界が光に飲み込まれた。
「咲月様、お目覚めになられたのですね!」
「サクラさん? って、私は何でここに……。夢見研究所に今までいたはずなのに……」
辺りを見回すと、狭い部屋の中央に置かれている『Traum Morgen』が目に映る。そして咲月は、自分がその脇に置いてあるベッドに寝ていた事も一瞬で理解した。
「夢を見ていらしたようですね。よくお休みになられてましたから」
軽い笑みをこぼしながら、サクラが囁くように咲月の耳元で言った。彼女の明るい茶色に染められたロングヘアーが、頭を動かす度に光に反射してキラキラと輝く。
「ゆ、ゆめ? なんで、だって私は……」
「覚えてらっしゃらないのですか? 咲月様は今日の午後、サロンのまえで倒れてしまわれたのですよ。たまたまスイゼンの目の前だったのが救いでした」
いつから夢だったのだろうか。それを判断する術は、もはや咲月には無い。
彼女はもう、夢という名の牢獄に囚われた囚人——『Dream Prisoner』なのだから。