複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる 最新話保留解禁 ( No.40 )
日時: 2013/01/03 23:24
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: 1fp0/ElW)

一章 第五遍 第四幕




「それにしても、あんなに現実世界とシンクロした夢を見るなんて。流石、早川咲月と言ったところかしら」

 淡いピンク色をしたロングドレスの上に白衣を纏ったサクラが、映像を見た感想を口にした。

「あぁ。この夢には本当に驚いた。サクラが『紅茶クッキー』を焼いたことや、俺が『Take Out』のオーダーを受けたことまで知っているんだからな」

 サロンの営業が終わる深夜2時。地下2階にあるモニタールームで、先ほどまで咲月が見ていた夢を四天王の4人が見ていた。
 『Traum Morgen』は使用者に望む夢を見せるだけではない。見た夢を記録し映像化して、他の人間が見られるのだ。他の人間と言っても、見る権限を持っているのは四天王のみ。彼らしか知らないパスワードが設定されているのだ。
 そして、使用者である客は『Traum Morgen』を使用する前に簡単なアンケートを記入する。そのアンケートの項目の中には当然の如く、「お客様が見た夢を研究のために使用しても宜しいでしょうか?」と書かれているのだ。丸を付ける客が殆どで、咲月もその例外ではなかった。
 しかし、彼女の夢を見た四天王は驚きの声を上げることとなる。その夢の現実味に。
 咲月の見る夢は、どれも現実を映し出したものばかり。幾ら小説の執筆に利用しているからと言って、無視できる内容ではなかった。
 そして、今回の夢。彼女が見たのは、彼ら四天王がサロンで接客をしている姿。彼女自身は寝ているとはいえ、そこに映し出されたのは紛れも無く今日のサロンの様子だった。
 夢の中で『Traum Morgen』を使用した咲月は、夢の中で夢を見る。確かに、最初は普通の夢のようだった。

「しかし何故、矢川研究所員が夢に現れたのでしょうか。彼の言っていたことは強ち間違いではありませんわ。全てが真実と仮定したら、彼と早川咲月には接点がある、という事になりますわね。夢の中で」

 『Traum Morgen』に関係することを扱うとき、特有の冷たい声でキキョウが考察を述べた。その考察にスイゼンも同意する。

「キキョウの言うとおりです。このことは、矢川研究所員に一度尋ねるべきですね。しかし」

 一度言葉を切ったスイゼンが、表情の読めないポーカーフェイスで問いかける。話を聞いている3人、サクラ、アオイ、キキョウに聞かせるように、問いかけている自分にも言い聞かせるように。
 ゆっくりと言葉が紡ぎだされる。

「『お友達』とは一体誰なのでしょうか? 咲月様自身も覚えておられないようですし。夢の中では、親しかった人の名前を聞くと顔がぼんやりとなら浮かぶのですが、全くありませんでしたから」

 彼の疑問に答えるものは1人もいない。ただ、沈黙だけが部屋を支配した。


                 第一章、完結