複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる 第一章完結 ( No.47 )
日時: 2013/01/18 23:31
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: J7WKW5tb)

二章 第一遍 第一幕




『……つき。……さつき、咲月!』
「ッ!」

 サロンで倒れて以来、毎朝聞こえる声。必ず自分のことを呼んでいる。正確に言うと、この声で目覚めているという所か。

『私との約束、覚えているよね』

 急にハッキリと聞こえた声は、まるで子供のような声で。どこかで聞いたことのあるような、無いような。でもこの声を聞いて、一瞬でも懐かしいと感じたのは気のせいだろうか。
 いつも通りの朝。白とピンクを基調にデザインされた私の部屋は、色彩に詳しい友人に手伝ってもらったのだ。目覚めるとすぐ目に入る、窓からの優しい光。薄い、白いレースのカーテンと、その脇に止められた厚手の、薄いピンクと濃いピンクの水玉カーテン。窓の光はカーテンを透かして部屋全体を包み込む。
 少し目をずらすと、白い水玉と浅いピンクの絨毯が床には敷かれていた。その上に真っ白なテーブルクロスのかかったテーブルが置かれていて。
——私のお気に入り。
 毎朝起きるたびに、変わらない部屋の景色を見てホッと、安心したような気分になる。私の居場所はここにあるんだ、って実感出来るような気がするから。

「咲月ちゃん。私との約束、覚えているよね」
「え?」

 視線を窓際に戻すと、さっきまではいなかったはずの少女が部屋の中にいた。
 真っ直ぐに伸びた、明るい茶色のロングヘアー。窓から差し込む光で、キラキラと髪は光り輝き、天使のわっかが出来ていた。

「私のこと、忘れてないよね。よく、研究所で遊んだじゃない。試験運用段階の『Traum Morgen』を使って」
「柏崎沙羅……?」

 私の呟きに近い問いかけに、彼女はにっこりと笑って頷く。その仕草に、忘れていた私の記憶がだんだんと蘇ってきた。
 でも。
 彼女は何処からこの部屋に入ってきたのだろうか。部屋の鍵はもちろん掛けてあるし、ここはマンションの5階だ。少女はおろか、この部屋まで上ってこられる人は少ないに違いない。
 私はいつもの癖で、目を閉じながら考える。

「可哀想」

 ポツンと呟かれた言葉に、フッと目を開けた。

「夢の中に囚われてしまったなんて」