複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる 第二章更新開始 ( No.48 )
日時: 2013/01/13 23:07
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: GRSdBGT1)

二章 第一遍 第二幕




 目の前の彼女が、哀れみの目を私に向けて悲しげに微笑む。その言葉を皮切りに、私の部屋が変化した。
 真っ黒な鋼鉄で作られた、鉄格子が目の前に現れる。私と、彼女を隔てるように。そして、私の周りをぐるっと取り囲んだ。

「やめて! 何で私が囚われなくちゃいけないの」

 発せられた言葉は、虚しく零れ落ちるのみ。そんな私の様子を見て、彼女は悲しそうに言う。

「ごめんね、咲月ちゃん。仕方が無いの。これが運命(さだめ)だから」

 彼女はおもむろにキッチンの方へ足を向けると、戸棚の中からピンクと白で模様が描かれたマグカップを取り出した。そして冷蔵庫の戸を開けると、少しだけ残っていたリンゴジュースを出し、残りを全てマグカップに注いで口をつける。

「このマグカップと、中に入っているリンゴジュースは、私がここにいたことの証明になる。咲月ちゃん、目覚めた時、このカップがテーブルの上に在っても驚いちゃダメよ。ここで今起こっていることは、夢でもあり、現実でもあるんだから」

 そう言うと、彼女は忽然と姿を消した。一陣の風が何故か、締め切られた部屋の中に吹き抜ける。その風は私の周りをぐるぐると駆け巡り——鉄格子の中から連れ出してくれた。


 気がつけば、咲月は部屋のベッドの中に横たわっていた。起き上がり、ベッドの上から部屋を見回す。
 すぐに目に入る、窓からの優しい光。薄い、白いレースのカーテンと、その脇に止められた厚手の、薄いピンクと濃いピンクの水玉カーテン。窓の光はカーテンを透かして部屋全体を包み込む。
 少し目をずらすと、白い水玉と浅いピンクの絨毯が床には敷かれていた。その上に真っ白なテーブルクロスのかかったテーブルが置かれていて。
 テーブルの上にはピンクと白で模様が描かれたマグカップと、空になったリンゴジュースの紙パックが、しまい忘れた記憶のように置かれていた。それらを目にしたとき、咲月の真っ白な肌には自然と鳥肌が立つ。
 そのマグカップを使って、リンゴジュースを飲んだ人物、柏崎沙羅がいたのは夢だった。沙羅の言った通り、今起こっていることは夢でもあり、現実でもあるのだろうか。

「私は……」

 咲月が独り言を言いかけたとき、まだ朝の8時だというのに部屋のインターホンが鳴り響いた。