複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる ( No.5 )
- 日時: 2013/01/16 17:57
- 名前: 黒雪 (ID: 2Z91luUY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
プロローグ 第二遍
ペタン。ペタン。
誰もいない、電気も点いていない薄暗い廊下を私は歩いていた。足に吸い付いて離れていく床の感触、ひんやりとして少し冷たい床の感触が足の裏から伝わってきた。
私は、なぜか裸足だった。
『ここはどこ?』頭の中の問いかけに答えるように、天井から表示がぶら下がっていた。高い位置にあって、そのとき身長が128cmしかなかった私には少し見えづらかったが、はっきりとした赤い文字で書かれていたから読むことが出来た。
『好星企業 夢見研究所』
最近テレビでよく見る会社の名前だった。『Traum Morgen』という機械を開発して、死刑制度に終わりを告げさせたらしい。
8歳の私には言葉の意味なんて分からなかったけれど、テレビで何回も言っていたから覚えてしまったのだ。
そんなことを思いながらも私は、ひたすら真っ直ぐ廊下を歩いていた。途中で横に曲がる廊下がいくつもあったが、何故か曲がろうとは思わなかった。
真っ直ぐ。ひたすら真っ直ぐ進む。
途中にあった部屋には、怪しげなものがたくさんあった。
不気味に光る赤と緑のランプ。ガタガタと音を立てて動く機械。薄紫に発光した液体の中に浮かぶ、紅色の物体。どれも電気なんて点いていない、真っ暗な部屋の中に置かれていた。
いったい、そんな部屋をいくつ通り過ぎただろう。
廊下の奥には緑色に光る非常口の案内板があって、そこで行き止まりになっていた。
ただ、一つ。
今までとは違う部屋があった。真っ白い蛍光灯の明かりが点いていて、私と同じぐらいの、いや少し年上だろうか、女の子がいた。
「ここで何をしているの?」
「研究しているの。お父様にそう言われたから。あなたは誰?」
「私は、早川咲月。あなたは?」
「柏崎沙羅。ねぇ、あなたと私は今、夢の中で会っているの。だからお願い。私のことを現実でも探して。そして、この研究所から助けて。もう、籠の中の鳥は嫌なの」
柏崎沙羅と名乗った少女は、自分のことを探して助けて欲しい、と言った。最初にこの夢を見た時、私はただの夢だと思って信じなかった。
——でも。三ヶ月も続けて同じ夢を見続けたら、誰だって信じるでしょう?
だから、私は『夢の中で』誓う。
「分かった。絶対に沙羅、あなたを見つけ出す」
私の記憶の中の沙羅は15歳の少女。身長が128cmだった私よりも背が大きくて、茶色い髪のロングヘアー。真っ直ぐに伸びた髪は、蛍光灯の光で輝いていた。
私、視力は2.0あるの。
そして、事あるごとに、彼女は視力の良さを自慢していた。
「大丈夫。私が必ず沙羅のことは見つけるから。だから——待っていて」
目を覚ました時、私は檻の中にいた。もちろん、その檻は誰にも見えないし、見ることも出来ない。
——でも、私は知っている。
『夢』という名の牢獄が口を開けた事を。
牢獄に囚われたら二度と目覚めることは無い、という事を。