複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 第二章更新開始 ( No.50 )
- 日時: 2013/01/18 17:37
- 名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: J7WKW5tb)
二章 第一遍 第三幕
朝の8時とはいえ、今日は日曜日。こんな早くに尋ねてくる人は少ないし、咲月自身、こんなに早くから会う約束をしている人なんて1人もいない。
慌てて飛び起きると、訪問者を確認する前に言葉を発する。
「すみません、少し時間が経ってからもう一度来て頂けますか。恥ずかしいのですが寝起きなので……」
「これは申し訳ございません。そうですね、2時間ほど経ちましたらもう一度参ります」
「はい?」
よく聞きなれた声に驚いた咲月は、インターホンに映しだされた訪問者の顔を、ようやく確認した。
「す、スイゼンさん!?」
そう。インターホンに映っていたのはサロン、『Dream Prison』の四天王の1人であり、『氷鏡の静謐』の呼び名を持つ氷のポーカーフェイスこと、スイゼン。
普段は黒いスーツをさも、本物の執事であるかのように着こなしているが、今日は真っ白なタキシード。まるで、これから結婚式を控えた新郎のような雰囲気をまとっている。
朝早くだというのに、身だしなみは決して怠らない。これは、意外とサロンの従業員の中では珍しいことでもある。正反対に、全く気を使っていないのはアオイ。
彼は、寝巻きだろうがきちんとした格好をしていようが俺の魅力は変わらない、という少々ナルシストな考えを持っていることが大きいのだが……事実といえば事実でもあるので、基本的に他の従業員はスルーしている。
「はい。少々お付き合いして頂きたい場所がございまして。好星企業の『夢見研究所』でございます。迎えは今から2時間後の10時で宜しいでしょうか?」
「あ、はい。多分、2時間あれば支度は終わると思います……。でも、何で私も一緒に行くんですか?」
その問いかけにスイゼンは、花が咲き始めるかのような笑みをゆっくりと口元に浮かべた。
「それはですね。咲月様に、是非とも会いたい、とおっしゃる方が居りまして」
「私に……ですか?」
「ええ。その方や、これから行く『夢見研究所』の説明は車の中で致しますので、また後ほど。早くから失礼致しました」
そう言い終えたスイゼンがエントランスホールから出て行くのを、咲月はインターホン越しに眺めていた。
今日は一体何が起こるというのだろう。咲月の中で、不安に似た何かが全身を駆け巡る。それは期待でもあり、予感でもあり。確信は無いが、今日、これから起こることでこれからの人生が変わるのではないかという、根拠の無い焦り。
そんな思いを断ち切るように、咲月は支度を始めた。