複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 第二章 第一遍 第二幕、解禁 ( No.52 )
- 日時: 2013/01/19 19:32
- 名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: J7WKW5tb)
二章 第一遍 第四幕
スイゼンが咲月の住んでいるマンションを訪れた後、真っ先に頭を過ぎったのは時間の使い方だった。予想通り、咲月は起きたばかりでまだ支度が出来ていない。10時にもう一度訪れる約束はしたものの、それまで時間はかなり余っていた。
かといって、これからサロンに戻ると接客をしなくてはいけないため、約束の時間には絶対に戻ってこられない。
何故戻って来れないのかというと、今日は珍しく、四天王の4人が揃って休みの日なのだ。普段の営業日なら必ず誰か1人はサロンにいるのだが、今日に限って全員がサロンを休んでしまっていた。本来なら日程を調整して予定が被らないようにするのだが、それぞれがはずせない用事だったこともあり、サロンには四天王が全員居ないという事態が発生している。
そして人は、時間が余ったとき何をするだろうか。2時間程度の時間なら、ちょっとしたカフェやファミレスへ行ったり、書店などで時間をつぶす人が殆どだろう。しかし、彼がとった行動は電話を掛けることだった。
『はい、私ですが』
2回コール音がなった後、彼女はいつも通りに電話に出た。2回目のコールが終わると出る。何でも彼女の中のマイルールらしい。
「スイゼンです。朝早くから申し訳ございません。先ほど咲月様の所へ伺ったのですが、了解を頂けました。10時に待ち合わせの約束を致しましたので、そちらに着くのは2時頃になるかと」
『あら、そんなにかかるの? 3時間もあればここには着くでしょうに』
「途中で食事を挟む予定ですので」
『食事はこちらで用意しますからね。だから、一刻も早く彼女を連れてきてくださいな。でも、安全運転じゃなくちゃダメよ』
敬語を一応使ってはいるが、かなり砕けた物言いで彼女は話す。目の前で話をしていたら、語尾には星マークやハートマークがたくさん付いているのだろうと余計なことを考えてしまった。
それが、気配で悟られてしまったらしい。
『なーに考えているの? スイゼン君』
「いえ、特には何も」
彼女が軽く笑ったのが聞こえた。
『嘘でしょ。全く、あなたは昔からそうなんだから。あ、そういえばね……』
そんなこんなで彼女との話は長続きし、いつの間にか1時間半が経過していた。そしてスイゼンは電話の間、ずっと車の運転席に座りっぱなし。いい加減足も痺れてきたし、もうすぐ約束の時間だ。
『……だからね、すごく面白い反応だっ』
「話されているところ申し訳ないのですが、そろそろ約束の10時ですので、電話を切っても宜しいでしょうか?」
『あら、もうそんな時間なの。じゃあ、後でね」
彼女との電話は、長続きする上にいつも一方的に話を聞かされるだけでかなり疲れる。彼女自身に悪気は無いのだが、電話をするたびに2、3時間も話されるのはさすがに困ってしまう。
そして彼は、携帯を助手席にあるかばんの中にしまうと、ハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。