複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 第二章 第一遍 第四幕、解禁 ( No.53 )
- 日時: 2013/01/22 10:42
- 名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: HzMsxQRb)
二章 第二遍 第一幕
「それにしても咲月様、夢見研究所には行ったことがあるのですか? 話を聞く限り、何度か訪れたことがあるような気がしてなりません」
「そう……ですかね。行ったことは無いと思うんですけれど」
午前11時。スイゼンが運転する電気自動車は、高速道路を軽快な速度で走っていた。
時は2400年。リニアモーターカーを応用した磁力車が主流となる中、100%電気で走る電気自動車はとても珍しい。しかし、リムジンのようにデザインを特注することが出来るので、サロンで使われる車はほぼ電気自動車だ。
サロンがあるのは都心だが、これから向かう夢見研究所は長野県に在る。渋滞も無く、ある程度の速度で走れば3時間弱で着くことが出来る距離だ。
その時間を使い、咲月はスイゼンから夢見研究所についての説明を受けていたのだが、何故か、異様なまでに詳しい。
夢見研究所は建物の内部が迷路のような構造になっており、一度訪れたことが無いと確実に迷ってしまう。研究対象が特異であるため、防犯対策を兼ねた造りなのだが、所々に仕掛け扉があるなど、利便性にも少なからず影響を及ぼしてしまっていた。
この情報は外部に伝えていないため、仕掛けがあることを知っているのは、企業の中でも研究所に行ったことのある者、もしくは彼らから研究所に行く途中に聞かされたものだけ。
しかし、咲月は知っていた。
迷路のような構造も、仕掛け扉の位置も、さらには仕掛けがどんな物で、どうすれば回避できるかさえも知っていたのだ。スイゼンが不思議に思うのも無理はない。
「でしたら、誰かからお聞きになったとか」
「いえ、それもないと思います。好星企業の人と接するのって、サロン以外ではこれが初めてのはず……ですから」
しばらくスイゼンは怪訝そうな顔をしていながらも、自分のことをどうにか納得させたらしく、運転の方へと意識を切り替える。
「そういえば——柏崎沙羅って人の名前を聞いたことはありますか?」
隣に座る咲月から、突然もたらされた地雷。彼は、驚きのあまりハンドルを切り損ねてしまいそうになり、車がかなり蛇行した。
鳴らされるクラクションと、ブレーキの金属音。今、聞いた名前は聞き間違いだろうか、いや、そうであって欲しい。
なぜなら彼女は——。
「すみません、変な事聞いて。知りませんよね、やっぱり」