複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 第二章 第二遍 第一幕、解禁 ( No.54 )
- 日時: 2013/03/05 20:43
- 名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: l9lUJySW)
二章 第二遍 第二幕
咲月が少し、がっかりした口調で大人しく言う。
「失礼ながら、柏崎……沙羅という方とは、どのようなご関係なのでしょうか?」
ゆっくりと、探るように問いかける。ハンドルを握る手は汗でしっとりと湿り、鼓動が耳元で鳴り響く。
「友達です。幼い頃、一緒に遊んだ」
スイゼンは、自分のポーカーフェイスが崩れたのを感じ取った。
何故なら、柏崎沙羅とは好星企業の社長令嬢でもあり、死刑制度の廃止に決定的なピリオドを打った『Traum Morgen』の開発者でもあるのだから。そして5歳の頃から、夢見研究所の敷地内から1歩も外へと出ていないのだから。5歳以前も、企業の監視は厳しかったため、出会った人は数えるほどしかいない。
そして、その数人の中に、早川咲月の名は無かった。咲月と沙羅はどのような状況を想定しても、今日が初対面のはずであるのに。
つまりは、咲月が幼い頃に沙羅と遊べるはずが無いということだ。それを、瞬時に頭の中で考え出したスイゼンは、驚きを顔に表したということ。
しかし、車の助手席に座っている咲月は通常、サロンの客である。サロンでは表情を殆ど変えることがないスイゼンが、驚きの表情を浮かべているのを見て、単純に戸惑っていた。
「あの……どうかされたんですか? 何かすごく驚いているようですけど」
その問いかけで、スイゼンは瞬く間に表情をいつものポーカーフェイスへと切り替える。
「ええ、まあ少し。失礼ですが、沙羅様とはどちらでお知り合いに?」
「どこというか……。実際に会ったことは無いんです。夢の中で会って、夢の中で遊んでいた、っていうだけで。どこだったかは、忘れてしまいましたけど」
「それは何歳ぐらいの時でしょうか」
「8歳です。というか、なんでそんなに沙羅ちゃ……沙羅さんの事にこだわっているんですか? 沙羅さんに何かあったとか」
声のトーンを落とし、急に不安げな表情に咲月がなる。それを打ち消すように、スイゼンは答えた。
「いえ、沙羅様はお元気でございますよ。まぁ、詳しくは申し上げられないのですが、沙羅様は我が、好星企業にとって、とても大切な存在であるとだけ言っておきましょう。普段なら、存在すら隠されているのですから」