複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 第二章 第二遍 第一幕、解禁 ( No.56 )
- 日時: 2013/03/05 20:44
- 名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: l9lUJySW)
二章 第二遍 第三幕
そんなこんなで、あれこれ話をしている内に時間はどんどん過ぎてゆき、いつの間にか高速道路を降りて研究所のすぐ近くまで来ていた。
「咲月様。もうすぐ、夢見研究所に着きますが、約束をしていただきたいのです。『絶対に中の様子を、外に漏らさないこと』、『何をされても、抗わないこと』、『何があっても、動じないこと』。この3点を絶対にお守り下さいませ。さもなくば……夢という名の罰が下るでしょう」
「さすが、『Traum Morgen』ですね。ここまで厳重な約束を取り付けるなんて。1つ目と3つ目の条件はなんとなく、理由が分かるんですけれど、2つ目ってどういう意味なんでしょう……?」
少し、困ったように問いかける。でも、咲月はそのフレーズに聞き覚えがあった。いや、聞いたというより、読んだという方が正しいのかも知れない。
あれは、半年ほど前、夏の終わりごろだっただろうか——。
Rispettalo senza lottare.
(抗わないで、服従しろ)
Non avere l'intenzione di uno.
(自分の意思を、持つな)
Tu dovresti abbandonare un pensiero afferrato con un concetto.
(概念に囚われた考えなんて、捨ててしまえばいい)
Perciò non "lotta anche se è fatto qualsiasi cosa."
(だから、『何をされても抗うな』)
Nel nostro futuro, è aperto su solamente facendo così esso.
(私たちの未来は、そうする事でしか切り開かれないのだ)
Perché tutto sono già troppo in ritardo.
(もう、全てが手遅れなのだから)
イタリアで発売された、本のプロローグ。作者は、黒崎詩織(くろさきしおり)という日本人だ。彼女が住んでいるシンシアの町がある地方は、とても文化の発達が遅れていた。
上下水道、ガス。この2つのライフラインは他の地域、いや、世界と比べても普通といった水準に、一応はなっている。しかし、それ以外はまるで、中世のヨーロッパ。
出かけるときは徒歩。上流階級の金持ちは、移動に馬車を使える。手紙のやり取りも1週間は掛かるし、電話や携帯、冷蔵庫やテレビといった、通信機器や電化製品も一切無い。
シンシアの町を中心とした、この一帯の地域は、文化が遅れているという言葉では表せない。
世界の発達から、取り残されてしまった地方なのだ。