複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる ( No.57 )
日時: 2013/03/05 20:44
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: l9lUJySW)

二章 第二遍 第四幕





 そして、このシンシアの町で『天使』と呼ばれ、人々から慕われているのが、作者である黒崎詩織。彼女は、この町の一般人で唯一、世界各国を旅し、アメリカの一流大学を首席で卒業するという経歴を持っている。
 つまりは、外の世界を知っている人間なのだ。
 彼女のほかに、外の世界を知っている人間は、町の長や貴族のみ。しかし、彼らは自分だけ甘い蜜を飲むことを選択した。外の世界と親交を絶ち、この地方を切り離してしまったのだ。
 そんな町に絶望した彼女は、『Viola farfalla』という本を、外の世界に出版したのだ。
 先進国の間で、特にシンシアの町があるイタリアでは、大きな話題となった。なぜなら、このシンシア地方は地図どころか、どんな文献を当たっても表記されていなかったのだから。
 何社ものマスコミが、シンシアの町に行こうとした。しかし、行こうとした彼らは口々に言う。
 『そんな町、存在しない』と。
 シンシアに行けないのは、地図が無いから当たり前。では、何故。黒崎詩織は出版社に原稿を持ち込むことが出来たのか。
 時が経つにつれ、マスコミはそのことを取り上げだした。
 そしてシンシアの町は、黒崎詩織の想像上の町なのではないか、という批判的な意見が世論として高まりつつあった——。

 という事を、咲月は授業で学んだのだ。配られたプリントには、その本に対する意見が詳しく記されていた。
 それは単なる授業。半年前の授業など、余程のことが無ければ、詳しく覚えているわけが無い。
 だから、黒崎詩織と早川咲月が会ったことがあるとしたら、話はどう変わるだろうか。

「……咲月様。という訳で以上の3つ、お守り頂けますか?」
「えっ! あ、はい」

 考え事をしていて、話を聞いていなかった咲月の様子を見て、スイゼンは苦笑する。
 しかし、言うべきことは全て言った。

「では咲月様。好星企業、夢見研究所に到着いたしました。足元に注意して降りてください。たまに、擬似地雷がございますので」