複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる ( No.59 )
日時: 2013/03/25 12:48
名前: 黒雪(=華牒Q黒来) ◆SNOW.jyxyk (ID: dfpk6DJ/)

二章 第三遍 第一幕





 天使のような微笑をたたえた彼女は、とても美しかった。
 すこし、パーマがかかった、茶色いショートヘアー。キリッとした印象を与える、シャープな黒縁メガネ。視力が悪いらしく、目が拡大されて見えている。身長は、155cmといったところだろうか。ヒールを履いているものの、咲月よりはかなり低かった。

「……はじめまして」

 咲月がすこし、戸惑ったように言葉を返す。あまりにも突然、背後から現れたため、驚いているようだ。

「どこから現れたのか、分からなかったんでしょう」
「えっ!」

 まるで、心を読んだかのような問いかけに、思わず素で声が上がる。

「ここに初めて来た人はみんなそう思うのよ。エスパーとかじゃないから安心してね? この広場を見て、何か不思議に思ったことってないかしら」
「不思議に思ったこと……ですか。ここに建っているオブジェが、周りの景色と合っていないなとは思いましたけど特にかわ……」
「凄いじゃなーいっ!」
「へ?」

 翼が、言葉と同時にオブジェに手を当てる。手が置かれた所から光が走り、真っ白な幾何学模様が浮き上がった。
 それはまるで、本の扉絵のようで。
 手を離すと、光で出来た線が瞬きながら移動し、奇怪な形と色をした両開きの扉がそこに建っていた。
 よく見ると、中庭に置かれたオブジェは1つを除いて、左右対称、つまり線対称の図形になっている。

「ここの研究所では、特に、重要な研究が進められているから、このようなシステムが導入されているの。このオブジェは、私達研究員の指紋、静動脈、手相など、あらゆる情報を記録し、ほぼ全てが一致した者にしか扉を開かない。これは、建物の内部でも同じ。研究所の、全ての扉で作動しているわ。とっても、素晴らしいでしょう?」

 うっとりとするような表情を浮かべて説明をする翼を見て、咲月は何故か、背筋がゾクッと寒くなった。
 何故かは分からない。でも、何かの前触れだとしたら、それは恐らく望まない未来。
 でも咲月は、潜在意識の中で知っている。
 未来はすでに、悪かろうが良かろうが、どうあがいても変えられないものだということを。
 どんなに自分が、他人が苦しんでも助けられないということを。

「すごい技術ですね。まさにハイテク……って言うんでしょうか」
「ハイテク、なんて言葉は時代遅れよ。400年前の人じゃないんだから。ここではもう、時代遅れの技術になりかけているのよ」
「これで、時代遅れ……」
「スイゼン! その場所は立ち入り禁止よ!」