複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる 【参照1300感謝です!】 ( No.63 )
- 日時: 2013/06/13 18:25
- 名前: 黒雪(華牒Q黒来) ◆SNOW.jyxyk (ID: 6sQlqYA7)
二章 第三遍 第三幕
ふわっと生暖かい風が頬を撫で、咲月の細長い身体を前へと押し出す。
それを触らないといけない気がした。いつかのように手を伸ばして。
『誰か……助けてよ』
懐かしい声が頭の中に響き、辺りの景色が記憶と同化した。色褪せていた記憶は色を取り戻し、きらめく緑が季節を告げている。
あの時は、夏の終わりだった。
夏の間に煩く鳴いていた蝉の声が小さくなり、草むらの影に潜む鈴虫たちの声が大きくなり始めた頃で。
私達は、いつものように、私と沙羅と矢川さんの3人で小道を歩いていた。小さな墓石を目指して、真っ直ぐ足を進めてゆく。
灰色をした、小さな墓石の裏にある、くぼみに手を触れる。すると、鈍い光と擦れるような音を立てて、石がゆっくりと右側に動いた。
私の記憶が正しいのなら、同じように……。
ふらふらと墓石に近づき、掌ほどの大きさの影を見つけようとする。
「きゃあっ!」
罠のように伸びていた、蔦のつるに足をとられてバランスを崩す。その拍子に、木の枝に腕を引っかけてしまい、洋服の裾を破いてしまった。
真っ白な長袖のブラウスに付いた、茶色い汚れ。破れ目から覗く白い糸屑は、悲しげに揺れた。
尻餅を付いた咲月に、慌ててスイゼンと翼が駆け寄る。
その時、私は一瞬の動作を見てしまった。
翼が、墓石の裏に何か細工をしたのを。でも、本当に一瞬だったからわからない。何か灰色をした物が、手の中から消えるのを見ただけだ。
「大丈夫でございますか? 怪我はされてないようです」
「そうね、見かけ上の怪我はしてない。でも、捻挫や打撲の可能性はあるわ。一応医務室に運びましょうか」
「え? いや、そんなに大したことじゃないので大丈夫です、歩けますし」
そう言って立ち上がった途端、左足首に金槌でおもいっきり叩かれたような激痛が走る。
「っ!」
細い足首がねじ曲がり、スローモーションで流された映像みたいに、世界がゆっくりとして見えた。
斜め前に投げ出された体を支えようとして、反射的に両手が前に出される。
その両手がたどり着いた先は——墓石の先端部分。
触った刹那に感覚が全身を支配した。
ゾクゾクするような陶酔感。痺れるような電流が指先から入り込んで、頭の奥がガンガンする。
それと同時に、墓石が鈍い灰色の光を解き放って輝いて。光は、縦横無尽に走ったかと思うと、やがて見覚えのある模様を浮かび上がらせた。