複雑・ファジー小説

Re: 【更新】君を探し、夢に囚われる【参照1900感謝です!】 ( No.74 )
日時: 2013/07/12 19:11
名前: 黒雪(華牒Q黒来) ◆SNOW.jyxyk (ID: Tfc7Tx7B)

ア・ラ・カルト


——私はただ、従ったのみ。

【運命】

 あぁ、なんと悲しき運命でしょうか。こんなにも幼き子が、外の世界を知らずして育つのは。
 私(わたくし)よりも過酷な運命やもしれません。少なくとも、豊かな庭の自然と青空は与えられておりました。しかし、この子には、それすらもないのです。部屋の中に閉じ込められる生活が、どれほど辛いものか。
 私が反抗することを予期したのか、彼女の居場所が伝えられるまで8年も待たされました。

「初めまして、沙羅様。私、キキョウと申しますわ」

 彼女は、一瞬ハッとしたような表情を浮かべましたが、すぐに無表情に戻ってしまわれました。

「……こんにちは。あなたも四天王とかいう人の1人?」
「えぇ。私、実の名を胡蝶桔梗と申します。胡蝶家の現当主ですの」
「……そう。なら帰って」

 そのときの沙羅様の目を、私は今でも覚えております。たった13歳の少女に、どうしたらあのように冷たい目をさせることが出来るのでしょう。
 私はそれを見て、彼女を救わなければと、強く決意いたしました。
 そして月日が流れ、私は再び沙羅様のもとへと、足を運びました。
 ですが、月日というものは、恐ろしいものです。あの研究所の外観は変わり、沙羅様の居場所は厳重に管理されていたのです。指紋認証システムには、私のものだけ登録がされておりません。

「楢崎、沙羅様にお会いしたいのですが」

 研究所の中庭で見つけた楢崎には、綺麗に無視されたのです。楢崎はなにかと私に敵対心を日頃から見せておりますので、予想していたことではありましたが。四天王の権力を使うことも出来るのですが、些か気が向きません。
 しかし、ちょうど研究所には、スイゼンとあの、早川咲月様がいらしていたのです。
 2人がいたお陰で、私は扉の奥へと入る事が出来ました。少しばかり、交渉はいたしましたけど。
 こうして、私は再び沙羅様にお会いすること叶ったのです。

「私に、誘拐されてみませんか?」
「え?」

 あぁ、彼女はもう大人なのですね。25歳の女性にしか見えません。姿を見なかった何年かで、見た目も、言葉遣いも、性格も変わられたのでしょう。
 だからこそ、この場所に閉じ込めておきたくなかったのですわ。

「この部屋を、牢獄を出て、普通の生活を送ってみたいとは思いませんか。誰かに制限されることなく、外を歩いてみたいとは思いませんか」

 私には、沙羅様が何をお考えなのかは分かりません。ですが、あれほど望んでいたにもかかわらず、彼女は迷いをみせているように感じました。

「キキョウ、越権行為でございます」
「貴方は同じことを思わないのでしょうか。小さい頃から屋敷に閉じ込められ、親が言うままに行動して。自由になりたい、周りの、普通の友達のようになりたい、1回でも想ったことはないのですか?」

 サロンに戻るなり、スイゼンから叱責されました。ですが、彼にも思い当たる節があるのでしょう。
 私と彼の、唯一と言って良い共通点であるのですから。

「確かに、想ったことはございます。しかし、貴女がしたことと、この話は別。そうでしょう?」
「えぇ、そうですわ。確かに、貴方の言う通り。しかし、彼女は恐らく、断ったことでしょう。それを見越してのこと。それに——これは社長からの命令でもありましたので。拒否しても良いと仰られておりました。それでも、この話を受けたのですわ」

 そして、私は微笑んでこう言うのでした。

「私はただ、同情しただけでございますから」