複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる【参照2100感謝です!】 ( No.76 )
日時: 2013/07/30 17:59
名前: 黒雪(華牒Q黒来) ◆SNOW.jyxyk (ID: fnEXgJbc)

二章 第四遍 第三幕





「え?」

 私は驚いて彼女を見つめた。
 彼女は、好星企業の幹部である四天王の1人で、私を閉じ込めている人々の1人。お父様の命令の通りに動くはずの人が、何故?

「この部屋を、牢獄を出て、普通の生活を送ってみたいとは思いませんか。誰かに制限されることなく、外を歩いてみたいとは思いませんか」

 その言葉を、どれほど待ち続けていたのだろう。その生活を、どれほど夢に見たのだろう。
 でも、それは叶わない夢なのだ。
 ここから出たところで、私に普通の生活が送れるかなんて分からない。望まないとはいえ、ここに居れば衣食住は保証されている。外の世界では、自分で何でもやらなくてはいけない。
 小さい頃から、周りの人達に全てをやってもらっていた私に、外の世界は微笑んでくれるのでしょうか。
 だから——。

「私には……」
「時間でございます、キキョウ」

 その言葉を遮ったのはスイゼン。胸ポケットから取り出した、銀鎖の懐中時計を右手に持って、勝ち誇ったように。

「5分。何があろうと、何が起きようと、きっかり5分。そういう約束でございました」

 彼は凍てつくような冷たい目で、私を、キキョウを、睨み付ける。
 そして血の気のない、乾いた唇を舐めた。舐めたところから唇は紅く染まり、妖艶な弧を描く。
 容姿端麗な彼、だからこそ、その立ち振舞いは異国の悪魔のように艶やかだった。

「……そうですわね。えぇ、そういう約束でございましたわ。沙羅様、またお会いするときまで御機嫌よう」

 そう言ってキキョウは、私に抱きついた——刹那。私は、首に冷たいものを感じた。

「今は見てはいけません。後ほど、部屋で1人の時にご覧くださいませ」

 耳元で、囁くように言われた言葉に私はただ、ただ小さく頷くことしか出来なかった。
 首にまとわりついた冷気が全身に伝わってゆく。
——私は何か、恐ろしいものを受け取ってしまったのかもしれない。

「さて、キキョウが帰られたことですし、私もいきなりございますが本題に入らせていただきます。咲月様お入り下さいませ」

 真っ白な長袖のブラウス。襟と袖口に華奢なフリルがついていて、とても上品なイメージがする。
 膝の少し上を揺れる、濃いピンクのスカート。それは裾がレースになっていて、レースから見え隠れする太ももが、なんとも悩ましい。
——やるわね、この子。ファッションセンスあるじゃない。
 つい先程まで感じていた寒気が嘘のように引いていく。
 久しぶりに楽しめそうだわ。