複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる【参照2400感謝です!】 ( No.77 )
日時: 2013/08/21 22:53
名前: 黒雪(華牒Q黒来) ◆SNOW.jyxyk (ID: GDWSGe53)

二章 第四遍 第四幕





「初めまして、柏崎沙羅と言います」
「えっ。あ、早川咲月です……」

 おとなしい人なのかもしれない。人形のような顔つき通りに。
 でも、それだけではなさそうだ。
 彼女から感じられるのは、驚き、戸惑い、落胆。私、何かおかしなことを言ったかしら。
 チラッと、隣のスイゼンを横目で見たが、いつものごとく無表情を保ったままだったので、少しだけ安心した。

「本日は、どのような用件でこちらに? 東京からは離れていますし、大変でしょう」
「私に会いたい……という方がいらっしゃると伺っていました。てっきり沙羅ちゃんのことかと思っていたのですが」
「沙羅——ちゃん?」

 驚いた。私のことを、ちゃん付けして呼ぶ人なんて、今までいなかったから。
 それに対して彼女は、しまったとでも言うかのように目を大きく開き、口元を両手でおおっている。

「私たち、以前にお会いしたことがあるのでしょうか。ごめんなさいね、私は覚えていないのですが」
「直接は——」

 だって夢の中ですから。彼女の、早川咲月の声が、直接頭の中に響いた。
 何故だろう。直接聞こえる彼女の声よりも、頭の中に響く、彼女の声の方が大人びていて、なぜか、聞き覚えがあった。

「覚えていませんか? 試作段階の『Traum Morgen』を使って、色んな夢を見たことを。そして、忘れてはいけない約束をしたことも。覚えていないなら……」

 彼女は一旦言葉を切って続ける。

「『Traum Morgen』で、私の夢の中に来てみませんか?」
「咲月さんの夢の中に……」
「今、企業ではそういった活用方法も検討されているみたいですね。だったら、その使用例として」

 部屋の隅に、片付けられないまま落ちていた資料を見て言う彼女の言葉は、妙に説得力があった。
 やってみても良いかも知れない。たまには自分の作った、心底嫌いな機械で遊んでみるのも悪くはないし。

「わかりました、私は賛成です。スイゼン、楢崎、異論はありませんね?」
「沙羅様がそう仰るのでしたら、ご自由に」
「私も同じく」

 深々と礼をする2人。
 外に出たいと言ったときも、こうなら良いのに。なんて考えが頭をよぎったが、すぐに消えた。

「実験室へ案内するわ。咲月さん、こちらへ」

 スイゼンと楢崎は用があると言って、別の所へと、私達とは反対方向へと向かって行った。
 企業の監視無しで、この機械を使うのは久しぶりかもしれない。
 私は、何を忘れているのだろうか?