複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる ( No.8 )
日時: 2013/09/04 12:28
名前: 黒雪 (ID: oQpk3jY4)

一章 第一遍




 死刑制度、廃止。

 その日の新聞やテレビでは大きくこの話題が取り上げられた。
 100年以上前から議論され続けていた死刑制度の存続について、ようやくピリオドが打たれたのだ。話題にならないわけが無い。
 国際的にも大きく取り上げられた。特に、ヨーロッパを中心として死刑制度を廃止していた国からは絶大な評価を受けた。
 しかし、その一方で批判的な声も上がった。愛する人を失った被害者の遺族たちだ。
『自分たちは愛する人を奪われたのに、加害者は刑務所へ入るだけなのか』
 そんな声がマスコミ各社に続々と集まった。
 それが2400年4月1日。しかし、事はそれだけで済まされなかった。

 洗脳か?

 一週間後の4月8日。メディアでは大きく『洗脳』の文字が踊った。
 とある記事ではこう説明していた。

 死刑制度が廃止された日本で新たに取り入れられたのが、好星企業の開発した『Traum Morgen』だ。この機械は裁判で実刑判決を受けた人のみに使用される。使い方は簡単。この機械の上で寝るだけだ。そうすると、被告人は夢を見る。その夢の内容は、自分が犯した罪をそっくりそのまま被害者になりきって体験する、というものだ。毎日、毎日繰り返し同じ夢を見て被告人が反省するまで続けられるそうだ。
 しかし、先進国からは相次いで、『洗脳だ』という声が上がっている。それもそのはず、自分が犯したことをそのまま夢で体験させて反省させるなど、どんな残虐刑より酷いだろう。
 試験運用の段階では、絶望に打ちのめされて正気を失った者もいると聞く。更生する機会を与えるためのものが、社会適応力を奪ってしまって良いのか。
 そして、東京都は条例で憲法第三十六条の執行権限を好星企業に与えた。これにより、刑罰の執行は全て好星企業に一任されることになり、我々国民にはどのように刑罰が成されるのか全く分からなくなってしまった。
 また、『Traum Morgen』が使用されるのは死刑判決を受けた被告人だけではない。先ほど述べたように、実刑判決を受けた人全てに適応される。そのため、無期懲役、禁錮等の刑罰も姿を消すことになった。罰金は存続され、『Traum Morgen』の維持費に使われるそうだ。
                       (2400年4月8日 実社新聞より)


——そして、10年後。
 犯罪者数は激減していた。