複雑・ファジー小説
- 君を探し、夢に囚われる【参照4100突破ありがとう!】 ( No.92 )
- 日時: 2013/11/08 01:23
- 名前: 黒雪(黒崎加奈) ◆SNOW.jyxyk (ID: uqhwXtKf)
二章 第五遍 第三幕
「この報告書は、早川咲月様が先日、サロンにて見た夢についてのものです。彼女の見た夢は、驚くほど現実世界とリンクしています。さらに、現在進行形で起こっている事でさえも、夢の中で見ることができるのです」
「まわりくどい言い方を、しないで頂きたいものですね。お二方が今日、ここに来た理由。それは、早川咲月の夢に、この私が現れたからでしょう?」
首をすくめて、やれやれと降参したように翼が苦笑した。
「敵いませんね、貴方には」
「報告書を読まずに、何故(なにゆえ)、夢に貴方が現れたと分かったのでございますか? 私たちが訪ねた時から、貴方は知っていた」
納得がいかないように、言葉を吐き捨てるスイゼン。いつも以上に、表情を頑なにしている彼は、苛立っているようにも見えた。
「早川咲月の夢が、現実世界とリンクしていることは知っていると思います。しかし、それだけではないのです。彼女は夢を見ながら、つまり、身体は眠っているにもかかわらず、現実世界に現れることができる」
「幽体離脱に近いものでしょうか……? つまり、身体はとある場所にあり、彼女は眠っている。しかし、夢の中で現実世界とリンクした際、全く違う場所に、実在するかのように現れることができる、ということですか?」
室内に置いてあるホワイトボードに、図を描きながら整理していく3人。
「そういうことです。彼女の夢に私が現れたとき、私は彼女と直接会話をしていた。だから、報告書を読まずとも分かったのです。最も、リンクしていようがしていまいが、彼女の潜在意識は、あくまでも『夢』。だから、恐らく映像では、この部屋で話をしたことにはなっていないはずですがね」
映像での奇抜な服装を思い出したのか、2人の表情が少しだけ緩む。
「成程……少々ややこしい話ですね。というわけで、スイゼン。この件はもうこれで良いでしょうか? そろそろ本題に入りたいのですが」
「何を以て『というわけで』なのかは分かりませんが、仕方ありません。私が説明を致します」
スイゼンが一拍、間を置いて話し始めた。
「我が好星企業において、柏崎沙羅様の存在は、最高レベルの機密情報に値します。そのため、彼女の情報については、全て、我々四天王に報告する。それが企業の暗黙的ルールだと存じ上げているのですが、矢川研究員、あなたは幾つか、報告を怠ったようだ。しかも、とても重大な。貴方が報告書を的確に書いていたなら、我々もここまで苦労して探し出す必要が無かったのでございますよ」
「んで、何を探し出したのですかね? ここまで嫌味を含んでいるのですから、さぞかし、重要なんでしょうね」
その言葉に、スイゼンが笑う。
「——黒崎詩織」