複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる【参照4300突破ありがとう!】 ( No.93 )
- 日時: 2014/06/14 17:08
- 名前: 黒雪(黒崎加奈) ◆SNOW.jyxyk (ID: 5T4lUgOl)
二章 第五遍 第四幕
「はい?」
「黒崎詩織、という女性を探していたのですよ。彼女は……いえ、なんでもありません」
「あぁ、黒崎さんか。彼女がどうかしました? 別に探すような人物でしたっけ」
「……今なんと?」
——暫し部屋の空気が凍りついた後、翼が恐る恐るといった感じで聞く。顔には、信じられないと言わんばかりの表情が浮かんでいた。
隣に立つスイゼンも、無表情のまま固まっている。
「2人してどうしたのです? 別にたいしたことは言ってないと思うのですが」
「今ので良くわかりました。貴方は報告書をきちんと書かないだけでなく、我々からの通達にもきちんと目を通していないのですね」
吐き捨てるように彼は言った。
「彼女が半年ほど前に出版した本は、覚えておいででしょうか。あの本には多くの疑問点があるなかで幾つか、興味深い点がございます。例えば——」
「例えば、黒崎詩織が早川咲月と会った事がある。そして、『鍵』を彼女に渡した可能性が高いということ。ですかね?」
「端的に言えばそういうことです。しかし、彼女が何故『鍵』を持っていたのか。あの鍵は、社長から直々に手渡されない限り、手にいれることの出来ない、この世に2つしか無いものです」
「対になる、2つの鍵の片方を持っているのは社長であるから、もう一方を持っている彼女、つまり、黒崎詩織は沙羅様の母親である可能性が高い——ということですね?」
部屋のなかに淀む、重たい空気を吐き出すように尋ねた。
「そういうことです。やはりあなたは賢いですね」
「それはどうも。ところでスイゼン。他の四天王の皆さんはどちらに? てっきり全員で来ると思っていたのですが」
その問いかけに彼は、嘲るような笑みを口元に浮かべた。そして、白く長い指で上を指す。
「サクラとアオイはイタリアのシンシアへ、キキョウは社長の元へ寄ったあとここに少し立ち寄り、今はサロンへと向かっております。今頃、2人は着いている頃でしょうねぇ。今更、彼女に警告を発しても手遅れでございます」
スイゼンは上を指していた指を、まっすぐ矢川に向けた。
「全ての準備は整いました。貴殿方は、私の用意したレールの上を歩くのみ。もう、私の手のひらの上で踊るだけでございます。あと1つを除いては」
「どうでしょう? そもそものゲーム盤は歪んでいる。スイゼン、歪んだボードの上で遊べるのか、拝見させて頂きますよ。もちろん、駒としてではなく、プレーヤーとして」
傍目から眺めていた翼が言った。
「どう転ぶか、どう転ばされるか。どちらにせよ、最後に決めるのは、早川咲月の見る夢しだい——」
第二章、完結