複雑・ファジー小説
- 【3章始動】君を探し、夢に囚われる【参照5600突破】 ( No.99 )
- 日時: 2013/12/29 10:20
- 名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: fnEXgJbc)
三章 第一遍 第一幕
「着いたわ」
私はそう言って、両開きの扉を開ける。中にあるのは、見慣れた白いベッド。いつもはシングルベッドだが、今日は2人で使うため、ダブルサイズに変更されていた。
深いため息をつくと、私は言う。
「始めましょうか。しかし、先に言っておきます。あくまでもこの機械は試験段階。予測不可能なことが起こるかもしれません。最悪の場合、一生を夢の中で過ごすことになります。つまり——死」
部屋の中の空気が変わったのを感じ取る。
「その覚悟は、ありますか?」
彼女はゆっくりと、頷いた。
「夢の中へと案内致しましょう。貴方が望む夢は何でしょうか。快楽、欲望。それとも罪の意識ですか? ただし、お気を付けください。——夢という名の快楽に囚われることの無きように」
この感じ、身体中の神経が研ぎ澄まされていく感覚。背筋に走る緊張と共に粟立つ肌。その全てが愛おしい。
二度と使うことは無いと思っていたこの機械は、私の一部でもあるのかもしれない。私はこの『Traum Morgen』の生みの親であり、育ての親。この短い25年の人生の中では、普通のベッドで寝るよりも、この機械を使って寝ることの方が多かった。
「プログラムコード・S 起動」
闇の中へと、堕ちて、私は——私達は。
見慣れた、真っ暗な廊下に立っていた。
素足に吸い付く、床の感触。ひんやりとした少し硬い床の感触が、足の裏から伝わってくる。夢の中にいるはずなのに感覚は冴え、寒さを感じた。
通常であるなら、他人の夢の中に入った時はなにも感じない。転んでも、怪我をしても、なにが起きようと感じなくなる。つまり、寒さや温かさといった温度はもちろん、床の感触なんて感じるわけもなく。私は戸惑いを覚えていた。
普段と何ら変わりのない、研究所の廊下。普通ならあるはずのない感覚が、私を狂わせようとする。
——大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、目を閉じかけたときに見つけた。小さい頃の、私。
違う、あれは私じゃない。
ううん、私。
……え?
あれは、私ですよ。
あぁ、そうか。2人で使っているから意識が混ざっているのね。一瞬気が付かなかったわ。ここから先は、貴女に任せる。
電気の点いていない、真っ暗な廊下。いや、真っ暗ではない。暗い部屋の中で不気味に光る、機械のランプや発光液。それらが廊下をときおり照らし、真っ暗な廊下を薄暗くした。
そんな廊下を、私は素足で歩く。
『ここはどこ?』そんな疑問が、ふと頭をよぎった。