複雑・ファジー小説
- #20 ( No.26 )
- 日時: 2012/08/20 08:14
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
「ア゛ア゛ァァァッッ!!」
胴の二箇所に穴を開けられた紙々は大きく仰け反り悲鳴をあげた。
今度は両手で銅貨を構え、放つ。
二つの銅貨は両の腕を捉えた。
「ガアアアアァァァァッッ!!」
間髪入れずに放たれた四発目は眉間を直撃する。
「グオオオオオォォォォッッ!!」
顔の上部が爆ぜて出来た裂け目。
そこから見える赤黒い発光体。
「これが紙々の核。これを潰せばっ…!」
栗狐がもう一枚銅貨を取り出し、それを狙おうと——
「…! サ! セル、ガァァッ!!!!」
その攻撃は失敗に終わった。
紙々と全く逆の方向から伸びた紙。
鋭い刃物の様に先端の尖ったそれが俺と栗狐を襲った。
「ぅあっ!!」
「っ…!!」
俺は右肩を、栗狐は頭を斬られた。
倒れた俺達を紙が縛り、さらに取り囲む檻のように紙が張り巡らされる。
そしてその檻から赤と青、二色の紙が伸びる。
それに遅れて、顔の上部を申し訳程度に修復した紙々が顔を出す。
「グ…カカ…! 良ク頑、張ッタ方…ダガ、モウ、オ終イ、ダ……ッ!!」
栗狐も腕を拘束され、攻撃が出来ない状況。
「メリーは…何で来ない、の!?」
栗狐が叫ぶ。
確かに、何らかの時間稼ぎをしたにしても長すぎる。
ここまで来ないという事は、まさか…
「幾重ニモ、紙ヲ…重ネタ、繭ノ、ド真ン中ダ…オ前達ヲ、殺シ、タラ、ユックリ…料理、シテヤ、ル…!」
くそっ、メリーでも敵わないのか…
協力するって言ったのに、俺は何も出来ない。
それどころか、宣言して最初の戦いで、負けた。
「サア…サヨ、ナ、ラノ時間ダ…」
もう、お終いか。
ふと栗狐を見ると、まだ諦めてない様で怒りの眼差しを紙々に向けている。
「赤カ、青カ、選ベ…殺サレ、方ヲ、選バセテヤル…」
赤なら全身を切り裂かれ、青なら血を抜かれる。
青を選べば痛みは無いか…
既に俺は諦めていた。
「あ…」
言おうとした時、
「白よ、私が選ぶのは、白」
栗狐がきっぱりと言った。
「ガ……」
駄目だ栗狐、そんな事を言っても怒りを買うだけだ。
生きていられる時間が少し延びるだけ。
そんな僅かな時間でメリーが来る可能性も無いに等しい。
だから、そんな選択肢は…
「駄目ダ! 赤カ青! ドチラカヲ選ブンダ!!」
あれ?
顔は怒りに歪んでいるが、殺そうとはしない。
ふざけた回答をすれば逆上し、どちらの色ともなく殺すかと思ったが…
「やっぱり、貴方はこの質問に答えられないと殺せない」
「グ、ガァ……!!」
まさか、こんな弱点があったなんて。
「駄目ダ…駄目ダ駄目ダ駄目ダ駄目ダァァァァ!!」
いくら逆上しようとも、紙が俺達を襲うことは無い。
先程の攻撃は「殺すつもりが無いから」できた。
殺意をむき出しにしたこの状態では、俺達が色を選ばない限り殺せない。
「何度言っても無駄。私が選ぶのは白。真実と潔白の白」
そう、白。
メリーのドレスの色だ。
メリーの肌の色だ。
人形の様な肌とドレスは、青い瞳と金の髪が映える白。
栗狐はきっと信じている。
白——メリーが来ることを。
「俺も、白を選ぶ。あいつの、色をっ!」
俺は全力で叫んだ。
「メリィィィィィィィィィィ!!!!」