複雑・ファジー小説

#21 ( No.28 )
日時: 2012/08/20 20:54
名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)



「……ア…ッ…!」
 直後、紙々の頭部が縦に真っ二つに裂かれた。
 内部の核諸共。
 そして俺達二人を縛っていた紙も斬られた。

「やっと、名前を呼んでくれましたね。優輝さん!」

 俺達と紙々の間に立ったメリーが此方を見て嬉しそうに言った。
 そういえば、俺がメリーの名前を呼んだのは、今が最初だった。
「メリー、お前…」
「気にしてたんですよ? いつ私の名前を呼んでくれるかって」
 そんな事を…
「……ごめんな」
「いえ、良いです。今呼んでくれましたし。それに優輝さんも栗狐も無事で何よりです!」
「……」
 メリーの笑顔は太陽のように眩しかった。
 張り巡らされた紙の隙間、窓の方向から差し込んでくる静かな月の光が、それを一層惹きたてていた。
 こんな状況でも、見惚れてしまう。

「ウ…ガ……!!」

 低い呻き声により我に返る。
 紙々は裂かれた頭を必死に修復しようとしていた。
「貴様…メアリー…! 貴様ァァ!!」
 無数の鋭い紙がメリーに向けられる。
「赤カ青カ、選ベ、選ベェェェ!!」
 それでも紙々は選択肢を選ばせることしか出来ない。
 紙々はメリーを道連れにしようとしている。
「メリー!」
「大丈夫ですよ、優輝さん。分かってます」
 そういうとメリーは持っていた短刀を振るう。
 メリーを狙っていた紙は、その斬撃を受けて跡形も無く『消滅した』。
「え…」
「私の短刀、『豊穣人』は斬ったものを消し去る。紙々、さっきの戦いで貴方は分かっていたでしょう?」
 あの短刀に、そんな力が…
 やはり、メリーは強かった。
 いつか教えてくれたメリーのレベル、最高の「5」は伊達じゃない事を証明する一瞬だった。
「…ガ……!」
 メリーの口元は歪んでいた。
 微笑み。
 優しそうで、それでいて恐ろしい表情。
 メリーの静かな怒りがそこにあった。
「さっきの質問、選んであげます」
 えっ?
「赤。私が選ぶのは赤」
「…!! 馬鹿メ、コンナ有利ナ状況デ死ヲ選ブトハッ!!」
 無数の赤い紙がメリーに襲い来る。
「メリー!!」
 あっという間にメリーが「居た」場所は赤い紙に飲み込まれた。

「勘違いしないで下さい。赤は私の結末じゃない」

 ただ一度の飛躍で再び紙々の眼前に躍り出たメリーは、

「貴方の結末です」

 その一言の元、紙々の顔を横に一閃した。