複雑・ファジー小説
- #26 ( No.41 )
- 日時: 2012/08/24 21:13
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
「おは…」
「ヒーローが来たぞっ!!」
ドアを開けた途端、俺は人の波に飲み込まれた。
「優輝、お前凄いな! あの事件解決したの、お前なんだろ!?」
「メリーちゃんも凄いじゃない! 一体どうやったの!?」
「愛の力!? 愛の力なのね!?」
そういえば昨日学校から出たところをマスコミに捕まった。
そりゃあんな事件、メディアが見逃す筈も無いし近所でそんな事が起こったら生徒達がニュースを見ていない訳が無い。
しかも何か俺らの関係についてまたおかしな勘違いされてるし。
昨日あれだけ騒いだのにまだ騒ぎ足りないのか。
「あー、愛の力なんかじゃねえ!」
「優輝の奴照れてるぞー!!」
「これは他のクラスの皆にも伝えてこなくちゃね!!」
……
また修正に時間掛かりそうだなー。
既に半ば諦めつつ、この場は流れに任せることにした。
六時限目。
その日の最後の授業中、ふと窓の外に目を向ける。
「……ん?」
学校から程近い高層マンション。
その二階の一室に目が行った。
「……」
正確には、その部屋のベランダ。
見覚えのある黒い女性。
九道さん…?
あそこに住んでるのか、と思ったが違う。
九道さんはベランダから室内を見ている。
室内で何かが動いていた。
あれは…
程なくして出てきた制服姿の男性。
四隅舞踏の一人だ。
九道さんと何か話すと、九道も部屋に入っていく。
何やら慎重になっている様子だ。
自分の家なら、あんなに慎重になる必要はないだろう。
レジェンズ関係、か?
あの部屋にレジェンズが居ることに気付き、退治するために入ったとか…?
「じゃあ、次を…樋口、読んでみろ」
あ、しまった。
授業を全然聞いてなかった。
「…すみません、どこからですか?」
「……ちゃんと聞いておかないと、お前とはいえ次のテストは難しいぞ」
その言葉に何故か凛が反応する。
「ちょっと待ってください! 優輝にとって難しいって私達からしたら無理難題じゃないですか!!」
大袈裟すぎるだろ。
「そうだ、樋口が楽勝…いや、俺達にとっても楽勝な問題にするべきです!」
「たまには先生から平均点上げる気になってみて下さいよ!」
そうだそうだと教室がどんどん騒がしくなっていく。
「先生! 確かに最近先生が作るテストは難しすぎます!」
教室のドアが開けられ外に居た生徒が言った。
「山田! お前1組だろうが! 授業はどうした!」
クラス外の生徒たちも騒ぎ出す。
正直もうどうでもいい。
「ええい、黙れ! 黙らんか小童共!!」
先生がキレたことでようやく騒ぎが収まる。
「ふぅ…血圧が上がる…樋口を敵に回すと色々面倒だな……」
いやいや、その理屈はおかしい。
というよりそれ教師が言う言葉じゃないぞ。
「はぁ、次のテストはそこそこ簡単にしてやる。とりあえず樋口、45ページの8行目からだ」
先生が折れた。
「はい…えーと…」
九道さんの事は後で考えれば良いだろう。
レジェンズに関わっていた場合は共闘という事も考えられるかもしれない。
同業者なのなら、まず敵対することは無いだろう。
とりあえず今は、授業に集中しよう。
俺は先生に指定されたページを読み始めた。
放課後、九道さんの事をメリーに話した。
「ふむ……あの女が何か考えている可能性は高いですね…」
「やっぱり、レジェンズが関わってるのか…?」
「とりあえず、今から行ってみましょうか」
するとここまでの会話でたまたまその一言だけが聞こえていたらしく…
「あ、メリーちゃん! 優輝君にデートのお誘い?」
と、女子の一人が妙にでかい声で言ってくれた。
…もう好きに騒いでろ。
場合によってはまた大惨事になる可能性も否めない。
「ちょ、優輝! 私ともデー」
いつも通りやってくる天災を、
「コンバァッ!!」
目の前に飛んできたハエよろしく退治し、いつもの奇妙な断末魔を聞きながら、メリーと教室を出た。