複雑・ファジー小説

#29 ( No.49 )
日時: 2012/08/29 20:14
名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)



 マンションの窓から何故か遠くの家の監視を始めて数時間。
 どうしてこんな事になっているかというと、九道さん曰くあの家にレジェンズが潜んでいるらしい。
 それは時々ベランダに出てくるらしいのでそこを狙おうという作戦らしいが…
「ていうか、出てきたとしてレジェンズをどうやって狙うんですか?」
「撃つわ」
「え?」
 九道さんが部屋のどこかから「何か」を持ってきた。
 黒を基調とした金属塊。
 先に行くにつれ段々と細くなっていく棒状のそれには筒型の付属品がついている。
 ベランダの窓を開け、二つの器具でその金属塊を支え固定させる。
 そして金属塊を先を家の方に向ける。
 直線状に家のベランダがある。
「あの…一体何を…ていうかそれ…」
「あら、スナイパーライフル。知らない?」
 スナイパーライフルと呼ばれたそれ。
 およそこんな街中で見る方法なんてほぼ無いに等しいだろう。
「本物…じゃ、ないですよね?」
「本物に決まってるでしょ」
「……」
 即答しながらも九道さんは撃つ準備を進めている。
「さて、後はあそこに出てくるのを待つだけだけど…」
 何故本物がこんな所にあるのか、というより何故持ってるのか。
 それを気にしてはいけないらしい。
「……待ってるのも面倒ね…虎道、呼んで来てくれない?」
 言うと小柄な男性が頷き、素早い動きで部屋を出て行った。
「呼んでくるって…そのまま討たせた方が良いんじゃないですか?」
「勝てないのよ」
 勝てない?
 どういう事だろうか。
 レベルが低いということか?
 向こうのレベルもまだ分からないのに九道さんは決め付けている。
 何か理由がある…?
「さて、しくじるんじゃないわよ、虎道…」
 家の方を見ると、ちょうどベランダに「何か」が投げ込まれたところだった。
 …「何か」?


「轟」。
 一字で表すと、そんな音だった。
 隠密もクソもない、周囲に響き渡る轟音。
 呼んで来いと言ったが、正直あれの一撃で止めを刺すかのように。
「って、あれ?」
 眩い光と耳を劈く轟音だけで、損壊なんて無い。
「フラッシュバンよ。周りに被害は無いわ」
 フラッシュバンは日本では閃光発音筒と呼ばれる爆弾の一種だ。
 音と閃光で一時的な失明、眩暈等を発生させる非殺傷武器。
 いや、そういう問題じゃない。
「あれ、十分目立ちますよね」
「問題ないわよ。都市伝説に関係の無い人には見えないし聞こえないから」
「え?」
「……ふーん……、知らなかったのね」
 何か含みのある言い方だった。
「お嬢ちゃん、まだ教えてなかったの?」
「……」
 メリーに向かってそう問う九道さん。
「メリー、何のことだ?」
「……都市能力としのうりょくです」
「都市能力?」
「都市伝説に関わった人間に稀に発現する特殊な力の事です。いわば超能力ですよ」
「それが今のフラッシュバン。常人には感じ取れない光と音よ」
 九道さんはその都市能力とか言うのをすでに所持しているわけか。
 即ち、武器の製造。
「それ、俺にも発現するのか?」
「確立はあります。でも…」
 何故かそこでメリーは黙り込む。
「まぁ、あまり良いものじゃないわよ。出来れば発現しない方が良いわ」
 九道さんがそう続けた。
 この力があればレジェンズと戦うのにも有利になるだろうに。
 何故発現しない方が良いのだろうか。
「あ、優輝さん! 出てきましたよ!」
 メリーが叫ぶ。