複雑・ファジー小説
- #31 ( No.51 )
- 日時: 2012/08/31 21:58
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
その家の前に来ると、やはり感じ取れる妙な圧迫感。
敵が消滅しきっていないのか、それとも倒していないのか。
そもそもあの女性がレジェンズじゃない可能性も十分に考えられる。
もしそうだったらそれはそれで問題な訳だが。
そんな事を考えていると九道さんは家の前に立っていた虎道と共に何の躊躇いもなく家に入っていった。
「あの、入って良いんですか?」
「誰も居ないわ。構わないわよ」
空き巣の考えだった。
マンションのあの部屋も住人に黙って住み着いてるらしいしこの人は一体何なのだろうか。
まぁとりあえず、人が居ないというならレジェンズを倒すのに都合が良いだろう。
「優輝さん、行きましょう」
メリーも入っていく。
やはり行くしかないようだ。
気は引けるが仕方ない。
九道さんとメリーに続いて家に入っていく。
外見は新しい家だが、中は思ったより古かった。
特に目立つものもなく、家具は埃を被っており誰も住んでいないかのようだった。
しかしこの気配。
絶対に何かいる。
少し進む度に妙な圧迫感が増していく。
早めに倒したほうが良いだろう。
てっきり二階のベランダに向かうと思っていたが、辿り着いたのは一階奥の部屋だった。
埃を被ったダンボールが幾つも積み重なり窓を隠している。
日の当たらないその部屋は使われていなさそうな荷物しかない。
恐らくは物置にでも使われていたのだろう。
「ここは……」
「気配はあるわね……この部屋に居るのは確かみたいだわ」
九道さんが辺りを見渡す。
「メリー、レジェンズの場所分かるか?」
「…分かりにくいですね…何か瘴気のようなもので隠れているみたいで……」
気配があっても場所が分からない理由はそれか。
察知されないよう何か邪魔する仕掛けでもしているのだろうか。
「片っ端から探すにしても不意打ちを受ける可能性も否めないわね……、仕方ないわ。虎道」
何か思いついたのか九道さんが虎道に声を掛ける。
すると虎道はコクリと頷き部屋の片隅に移動した。
「都合が良いわね。四隅全部空いてるなんて」
虎道が片手を前に翳す。
すると目の穴がキラリと光った気がした。
スタ、スタ、スタ、と。
何かが床に足をつけた音が三回鳴った。
それは虎道が居ない三隅から。
点道、線道、救道。
そう名乗っていた四隅舞踏の三人。
自己紹介をしたとき以来、四人が揃った。
「さぁ、異物を全て洗い出しなさい」
『立道——』
九道さんの掛け声に反応し、四隅舞踏が同時に口を開いた。
始めて聞く名詞が発されると同時、視界が黒い靄のようなものに包まれた。
「なっ——!?」
「きゃっ——!?」
メリーも叫びを上げた。
恐らく今、俺と同じことが起きている。
何か、途轍もなく嫌な感じがする。
頭が痛い、吐き気がする、身体が重い。
風邪の症状に似ているようで、どこか違うという例えようの無い感覚。
「——、九道さん、一体…——」
九道さんが此方を見ている。
眼鏡の奥、表情を掴む事は出来ない。
そして九道さんの上、何も無かったはずの場所に、人影があった。
何なのか、それを確認する前に、俺の視界は埋め尽くされた。