複雑・ファジー小説

#33 ( No.53 )
日時: 2012/09/02 21:09
名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)


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 子供達の脱出を見届け、一息つく。
 最早この世界は持たない。
 世界がまるでパズルのピースのようにバラバラと崩れ落ちていく。
 そこに残るのは、ただ黒い空間のみ。
 あのレジェンズ——櫛禍と言ったか。
 用意されたこの空間に入ってすぐ、強烈な重圧が私を襲った。
 私のための空間というのはつまり、管理も私に委ねられるということで。
 レベルの低い私に一つの空間を管理する力があるわけもなく、早々に破壊が始まった。
 だからこの美しい世界が持つ僅かな時間、この人と共に居たかった。
 名前なんて知らない。
 でも少し前。
 私が星を見ていたとき、ふと同じく空を見上げてた彼を見つけた。
 今の時代、こんな都会で星を見る人なんて少ない。
 そう思って見ていると、目があった。
 その時、彼に一目惚れした。
 しかしレジェンズと人間が結ばれるなんて事は絶対にない。
 異質が常と混じってしまうと、常は周囲諸共崩れ、異質と化してしまう。
 情を抑えきれなくなり、彼を攫ったのが二日ほど前。
 たった二日で、彼が思いを寄せていた女性が病に倒れた。それは私の仕業だが。
 彼を扱き使っていた上司が亡くなった。それも私の仕業だが。
 両親も出かけた先で事故にあった。これは私が仕組んだ事ではないが彼が行方不明になったというショックが原因だとすれば私のせいなのだろう。
 たった二日で、知人がそこまで亡くなった。
 確かに私の性格は歪んでいるが、人にあまり迷惑をかける事は好まない。
 だから、これ以上被害を増やさないうちに、元を断った。
 愛する人の亡骸を抱く私は、あの子達から見たらさぞ異常に見えたことだろう。
 別に構いはしない。私は歪んでいるのだから。
 とうとう地面は私達が居る部分のみとなった。
 少しでも存在を保とうとする空間は最後に私達の居る場所を残す。
 つまり地面が消え、次は空。
 夜空に煌く星が少しずつ消えていく。
 心が痛んだ。
 私と彼を結んでくれたもの。
 見ていられなかった。
 だから私は、彼だけを見続ける。
 まもなく消えるその体を、まもなく消えるその体で。
「——愛してる」
 すでに冷たいその唇に唇を合わせる。
 そしてそのまま、私の意識が消えるまでそれを保ち続けた。

 〜〜〜〜〜〜

 見慣れた道に出てきた。
 あの女性はどうなったのだろうか。
 それより、九道さんだ。
 あの世界に飛ばされたのは、多分四隅舞踏の力。
 あれが故意にだとしたら、何のつもりだったのだろうか。
 女性がいた世界のことを知っていたなら、共に消滅させようとした…?
「あの女、絶対許せません…! 今度会ったらタダじゃ起きませんよ…!!」
 メリーが怒りを露にしている。
 信じたくは無い。
 初めての人間の協力者だと思っていた。
 あれは事故だと、信じたかった。

 〜〜〜〜〜〜

「世界の消滅を確認しました」
「ご苦労様、点道」
 あの子たち、大丈夫かしらね?
 別に一緒に消滅してもしなくても関係ないけど。
 あ、でももし生きていたら面倒なことになりそうね。
「さて、明日また一仕事よ。坊や達を探してきて」
「それは、あの子供たちが脱出したと?」
「さぁ? でも生きていたら、間違いなく私を恨み、狙ってくるわ。だから——」








「見つけ次第、殺しなさい。手段は問わないわ」