複雑・ファジー小説

#34 ( No.54 )
日時: 2012/09/05 20:57
名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)



 ……
 いつもとは違う時間に眼が覚めた。
 あれから家に帰り、すっかり忘れていた栗狐に怒られた。
 とりあえず放課後にあった事は言わないで適当に誤魔化したが疑いの目で見られたのは言うまでも無い。
「……」
 時計は3時を指している。
 丑三つ時。
 何か奇妙なことがが起こりやすいと言われてる時間だが…

『 』

「ん?」
 これは…「久しぶり」に来たか?
『——お兄ちゃん、起きてる?』
 どこか遠くにあるような、現実的ではない声。
 それは生まれてから何度か聞いたことがある声だった。
「……あぁ、起きてるよ」
 其方を向くとベッドの横に立っている女の子と目が合う。
「久しぶり、夢子」
 黒く派手なゴスロリ姿の五歳くらいの女の子。
 長く白い髪を後ろで三つ編みにしている。
 初めて会ったのは俺が小学生くらいの頃だったろうか。
 何故か自然に馴染んでしまい、それから頻繁に遊びに来るようになった。
 それは高校に入ってから見なくなったが、久しぶりに会った。
 ちなみに夢子というのは俺が付けた名前だ。
 夢だと思っていたからだろうが、我ながら単純だ。
『うん! 二年ぶりくらいかな?』
「二年…もうそんなになるんだな。どうして突然居なくなったんだ?」
『お兄ちゃんのせいだよ!』
「え?」
 俺のせい?
 何も思い当たることは無いが…
『お兄ちゃん、霊とか怪談とか全然信じなくなったんだもん!』
 そういえば、高校に入った頃からだったか。
 霊やら怪談やらは馬鹿らしくなり信じなくなった。
 夢子の事は完全に夢の存在だと思っていたため、別と判断していたが…
『信じてもらえない人のところに私達はいられないわ』
「え…私達って…」
『お兄ちゃんがレジェンズと交流してたなんてね!』
 まさか、夢子からレジェンズという単語が出てくるなんて。
 という事は…
「夢子って…」
『「夢枕」のレジェンズよ』
 夢枕。
 寝ている人の枕元に現れるという神仏や故人がお告げをするという。
 これは都市伝説とはいえないだろうがそれでもレジェンズに成り得るのだろうか。
 まさか夢子がレジェンズだったなんて。
「なるほど…俺がレジェンズと関わったからまた俺のところに来れるようになったのか」
『うん、この家に住んでる二人のレジェンズの影響が強いみたいだよ?』
 メリーと栗狐。
 彼女達の影響で再び夢子が俺の元に現れたと。
『まぁ、私は毎日顕現出来るほど力は無いけどね』
 常に顕現し続けることもままならないと。
 栗狐よりも能力が低いということか。
「だから毎日来なかったのか」
『あれ? 寂しかった?』
「……少し」
 あの頃、あまり寝つけない日が多かった。
 夢子が来ない日はとてもつまらなく、寂しかったのだと思う。
『あはは! ごめんね、私の力が偏っちゃったから』
「ん? 偏った?」
 顕現するべき力が別の方向に注がれてしまったと?
『私の力は自然と「お友達」に分け与えられちゃうの』
「お友達?」
『うん。今は居ないけど、今度連れてきてあげるね!』
「…遠慮しておく」
 何となく嫌な予感しかしない。
『えー…うーん、じゃあお兄ちゃんがピンチになった時助けてくれるように頼んであげる!』
「ピンチって…そんなに紹介したいのか?」
『うん! 皆優しくて強いんだよ!』
 優しくて…強い…?
『それじゃーね!』
「って、え?」
 言うが早いか、夢子はその場から消えた。
 力がなくなったのか?
 とりあえずまだ眠気はある。
 時間もまだ早い。
 もう一眠りしておこう。