複雑・ファジー小説
- #37 ( No.57 )
- 日時: 2012/09/12 20:54
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
〜〜〜〜〜〜
「ぐっ、あ……」
ビタビタと、川原の草が鮮血に染まって。
女子のようにか細い腕は、そのまま空気に溶けるように消えていきます。
「全く、レベルは「2」と言った所でしょうか?」
優輝さんは別の場所に攫われたようですし、早くこいつを倒して合流しないと。
「貴様……よくも……」
「ふん」
片腕になった小さな男性が飛び掛ってくるも、それを軽くあしらう。
「く……やるな……」
「いえ、貴方が弱すぎるんですよ」
「っ、言わせておけば!!」
残った腕でナイフを持ち、それを振りかぶってくる。
戦い方が、なっていない。
受け止める必要もありません。
「はっ!」
根元から斬ってやれば、斬られることもない。
『豊穣人』の一振りの元、ナイフを持っていた腕を斬り飛ばす。
「ああああああああ!?」
悲痛な叫びが上がるも、私は加減をする気はありません。
その胸に、軽く『豊穣人』を突き立て、問います。
「優輝さんはどこですか? 言わない場合は刺します」
「っ、あ……!」
痛みに呻くそのレジェンズ。
情けないと思いつつ、突き立てた短刀を持つ手に力を込めます。
「早く言ってください。手間は掛けたくありません」
その仮面の中の表情は読めないが、きっと恐怖しているに違いありません。
「ぅ、あ、子供を攫った救道は、南の森だ!」
「南の森…近いですね」
「言っただろ! だから助」
「感謝します」
そうだけ言って、短刀を押し込む。
「——……」
力無く倒れ、霧散していくレジェンズを尻目に森に向かいます。
栗狐の事も心配ですが、彼女はレベルは低くともレジェンズの一人です。
やられないと信じていますよ、栗狐。
〜〜〜〜〜〜
「はあははははははあぁっっ!!」
叫び声の様な喜びの声を上げる巨躯がトランプを投げてくる。
それ一つ一つに狙いを定め、銅貨を投げると私と相手のちょうど真ん中辺りで爆発する。
その爆発の中から飛んでくる無数の刃。
それらを避けつつ、もう一度銅貨の準備をする。
向こうは巨躯の割に非常に器用で小手が利く。
私と同じ、情報改竄の使い手だった。
トランプに様々な仕掛けを組んで飛ばしてくる。
情報改竄は普通、「何」を「何」に変化させるかを一つ決めると、その変化をさせるための訓練をする。
私はレベル1という低さも相まって習得が余計に遅く、今でもマスターしてるのはこの銅貨を爆弾に変化させるくらいだ。
しかし向こうは、数多くの改竄をやってのけている。
向こうの方が実力は上だと認めざるを得ない。
それに銅貨も無限ではない。
何度も相手のトランプを相殺する上で、すでに八割近く消費している。
残りの銅貨は少ない。
私自身の力も限界だった。
そろそろ決着を付けないと、やられるのは私のほうだ。
「甘い! 甘いぞ小娘ぇ!」
豪快ながらも、此方を正確に狙ってくる。
見た目にそぐわないとはこの事だ。
「っ……」
トランプは出来るだけ避けるようにする。
爆弾、刃、拡散弾と改竄の内容は様々だが、それぞれ対処は出来なくもない。
攻撃の合間に攻撃を試みるも、思った以上に速い動きでかわされる。
「ふははははははぁ! 俺の勝ちだぁ!!」
既に勝ちを確信しているらしい。
それは大抵の場合死亡フラグなのだろうが、確かに形勢は向こうに利がある。
「……」
奴を倒せる秘密兵器が無いかといえば、ある事にはある。
だけどそれはまだ修行中の改竄法であり、非常に不安定なのだ。
しかしそれを今使い、成功させなければ、勝ち筋が見えなくなる。
成功させるしかない。
メリーがどうなっているか、優輝さんがどうなっているかも分からない。
やるしかない。
銅貨を構える。
「一騎打ちか? 良いだろう! 乗ってやるぞ!!」
巨躯が一枚のトランプを構える。
「さぁ、俺は最高の切り札を使うぞ! そっちも爆発だけじゃなくて、何か別の芸当で勝負してみろ!!」
言われなくても。
爆発ではどっちにしろ、一騎打ちでは勝てない。
銅貨の情報を書き換えていく。
「さぁ行くぞぉっ!!」
巨躯の男は心底真面目らしい。
トリッキーなくせに、真正面からぶつかっていく。
好感が持てるタイプだった。
「3!」
一世一代の賭けへのカウントが始まる。
「2…」
何度も、何度も、入念に改竄状況を確認する。
「1!!」
オールグリーン。きっと上手くいく。
「っ!?」
一瞬、その目の前の敵の表情が驚愕に変わった。
「0…!」
しかし、3カウントは3カウントだ。
0を宣言し、私はコインを飛ばす。
一歩遅れて、男がトランプを投げる。
その一瞬の油断は決定的な差となり、現れる。
「——鐘楼堂…!」
銅貨が二層の変化を遂げる。
主力の攻撃を標的に100%届けるため、それを守る盾。
即ち、異質を打ち消す風。
私の力の無さもあり、それの効力は大した事はない。
しかし、十分だ。
見えざる盾はトランプと中心部の主砲がぶつかる事をさせない。
トランプはその風によって、ズタズタに引き裂かれた。
異質の力をなくし、風に煽られる紙切れを尻目に、主砲はそのままの速度で偉丈夫に襲い掛かる。
「——っ!!」
ドンッ、と。
爆発音が響く。
「か、はっ…」
体の中心に風穴が開く。
賭けは何とか勝つことが出来た、ということだろうか。
男は目を見開きながら、小さく唇を震わせる。
「見…事……だ」
身体を貫かれてなお直立するその男は、しかしどこか嬉しそうだった。
「強き存在……お前と…戦えたこと…誇りに、思う……」
一応私はレベル1なのだが。
強いと言われることに悪い気はしない。
「虎道…と、救道…も…やられたようだ……お前達の、勝ちだろう…」
良かった。
メリーも優輝さんも無事らしい。
その事に一旦安堵する。
「然らば…暫し眠るとしよう…立道が、呼ぶ…まで……な………」
聞き覚えの無い名前を言い残し、男は消えた。
それと同時、私もその場に崩れる。
力はすでに限界を超えていた。
このまま動けば自滅しかねない。
二人は勝ったようだし、多分問題ないだろう。
一旦休憩しよう。