複雑・ファジー小説
- #39 ( No.60 )
- 日時: 2012/09/17 21:16
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
「あら、意外と早かったのね」
待っていたかのように、九道さんは言った。
傍らには、長身の男性、点道。
路地裏の一本道に立つ二人は、怪しい雰囲気を十二分に醸し出していた。
「九道さん…何で……」
早速話を切り出そうとすると、
「ねぇ、坊や。私は自分で言うのもなんだけど慎重なのよ」
「え?」
何を唐突に……
「思慮深い、と言うのかしらね。相手が何をしていなくとも考えちゃうの。「あいつは裏切る」って」
今回裏切ったのはそっちの方ではないか。
そう言いたかったが、彼女の言葉はまだ続いているようだった。
「思い込みってのは十分に分かってる。だけどね、何度も裏切られているとそう思いたくなるのよ」
「…何度も?」
「いつだって私は一人。裏切られ、裏切られ、裏切られ、裏切られ。何度も何度も殺されかけた」
語られたのは、九道さんの恐ろしく、陰惨な過去だった。
〜〜〜〜〜〜
私は特別な人間だった。
常に他人に非難され続けた。
別に何か力を持っているとか、勉強が出来たわけでもない。
別に私自身が何をしたという訳でもないのに。
両親共々殺し屋をなんて馬鹿な仕事を全うして幾多の人間に恨まれたという事実が報道されてからだった。
「悲劇の子供」、「親の残した黒い光り」、「殺し屋の置き土産」。
様々な名でテレビは私を取り上げ、脚色して報道した。
何の責任も取らずに自害した二人を、私は絶対に許さない。
私がどれだけ真面目に生きても、「殺し屋の子供」というレッテルが剥がれることは絶対にない。
学校すらまともに行かなくなり、家の暗がりでじっとしている事が一日のほとんどを占めていた。
親戚は誰も私を引き取ろうとせず、むしろ「早く親に付いて逝けば良い」と陰口を叩く有様。
ただ、世話をしてくれる人が居ない事は無かった。
一日に何度か、親の友人と言う人が世話しに来てくれていた。
それが殺し屋業の関係者だと知ったのは、14歳になった頃だった。
怖かった。
いつか、彼は私を殺すのではないか。
殺し屋は仕事柄、恨みを買いやすい。
彼もまた、両親に恨みを抱いているのかもしれない。
いつからか私は、疑心暗鬼に飲まれていた。
そんな時だった。
私の手に、一丁の拳銃が握られていた。
いつの間に、何故、どうせ玩具だろう。
そう思い、軽い気持ちで彼に向かって引き金を引いた。
強い衝撃。
鳴り響く銃声。
赤い液体を噴出して倒れたそれ。
何があったのだろうか。
倒れた彼を揺さぶっても、起き上がらない。
どころか声すら上げない。
まぁ、声を上げないのは当たり前だ。
喉を撃ち抜けば声は出ないだろうから。
それが本物だと悟ったとき、私に何か火が点った。
結局は私も、殺し屋の血を継ぐ者だった。
14歳のフリーランス暗殺者。
すぐに有名になった。
類稀な才能を持つ若いアサシンだと。
望めば、ライフルが出てくる。
望めば、爆弾が出てくる。
望まなくても依頼が来て、生きるためにそれをこなす。
永遠とそれを繰り返すだけの時が何年も続いた。
七年後、私は山で遭難した。
山奥に住む暗殺対象を殺しに行く途中だった。
考えてもみれば、そんな山奥に恨まれるような人間が居るはずもない。
依頼者が私に恨みを持っている人間で、これは私を遭難させ、凍死させようとしたのだと。
何時間彷徨っただろうか。
日が沈み始めた頃、一軒の小屋を見つけた。
それが、出会いだった。