複雑・ファジー小説

#40 ( No.61 )
日時: 2012/09/20 21:21
名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)


 小屋の中は非常に古ぼけていた。
 壊れて昼間を指す時計の針の音だけが静かに響く。
 電気も通っていないようで、この小屋に居たところで暖を取る事すら出来ないのは明確だった。
 しかし、私はこの部屋に何か「違う」ものを感じた。
 辺りを見渡しても、申し訳程度の家具しか置いていない。
 他に部屋も無いようで、何のために建てられたものなのかも分からない。
 荷物を降ろすと、私は不思議に思ったことを調べ始めた。
 即ち、その部屋に潜む何か。
 別に私は霊感が強いわけでもないし、生まれてからそういった出来事に巻き込まれた事もない。
 だが何故か確信が持てた。
 壁などを調べてみるも何も見つからない。
 そんなことをしている内にも冬の寒さは確実に私の体温を下げていく。
 結局耐え切れなくなり、その場に蹲ってしまった。
 持ってきた荷物に暖を取れるようなものは無い。
 爆弾で火を起こす事も考えたが、燃やせる程度に乾いた木など無かった。
 こんな所で、凍死なんて。
 格好がつかないなんてふざけた事を考えながら、目を瞑った。
 完全に諦めていた。
 いたのだが。
 神は私を生かした。
「女史、大丈夫ですか?」
 うっすらと目を開けると、視界には奇妙な仮面が映った。
 不思議な力で私を助けてくれたそれ。
 無事だと悟ると、後ろから三人の仮面が現れた。
 最初に現れた長身。
 それに続いて偉丈夫、小柄、細身。
 殺し屋である私の命を救ったその「異質」。
 それが私が初めて関わったレジェンズ——四隅舞踏であった。

 その日から四隅舞踏は私についてくるようになった。
 私が、彼らが従う存在として適任というらしい。
 彼らの力は本当に心強かった。
 ほとんど無気配の味方を連れた暗殺は成功率も上昇し、私はさらに有名になった。
 たまに他の殺し屋と協力し、一つの対象を狙うこともあった。
 しかし、その度に私をあの感覚が襲う。
 世話をしてくれていた親の友人に抱いたあの恐怖心。
 それが私を包み、他の事を一切考えられなくなる。
 だから、協力した同業者は、必ずどこかで殺す。
 自業自得。
 しかし、自分が死ぬのは嫌だ。
 私は身を隠しながら、別の仕事を始めた。
 命を断つ仕事という事に変わりは無い。
 即ち異質、レジェンズの討伐だった。
 悪行を働くレジェンズを殺す。
 それが、殺すことしか出来ない私の精一杯の善行だった。
 別に今までしてきたことを償うつもりも無い。
 ただの気まぐれ。
 そう、ただの。
 今回の出来事も何一つ変わらない。
 協力者、そしてレジェンズを連れている少年。
 だから殺す、と——