複雑・ファジー小説
- #41 ( No.62 )
- 日時: 2012/09/25 21:20
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
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話を終えるまでずっと、表情一つ変えない九道さんはやはり、目の前の「殺害対象」に何の感情も向けていない。
「貴方に何も非は無いわ。でも十分に殺害対象になりえるの」
破綻している、というレベルではない。
理由など有って無い様なものだ。
ただ「協力したから殺す」、「レジェンズが居るから殺す」と。
いや、九道さんにとってはそれが正当な理由と成り得るのかもしれない。
裏切り、裏切られ、狙い、狙われ。
常に命を狙われる彼女だからこそ。
「九道様の考えは我々の考え。だからこそ、ここで貴方達は消えなければならない」
九道さんの横に就いていた点道が前に出てくる。
「ふむ……解らぬな」
そこで口を出したのは、ずっと目を閉じて話を聞いていた神槍だった。
「何が…?」
「手を組んだ者の殺害を繰り返す主が、何故に仮面男を殺さない?」
「……何が言いたいの?」
「少し疑問に思っただけのことよ。主と関わった中で最も謎が多く、得体の知れないそ奴を始末せぬのは何故かと問うたのだ」
協力者は殺す。
レジェンズも殺す。
しかし、協力者でレジェンズである、四隅舞踏。
彼女の周囲で、最も謎があるであろう彼らを始末しないのは、何故か。
「——っ!!」
眼鏡の奥の表情が驚愕に変わっていくのが分かる。
何故か、心底驚いているかのように。
「…そう。何で、私、この子達を……」
「……」
その場に蹲り震えだす九道さんを点道は一瞥し、再び此方を向く。
「余計なことを……こんな所で暗示が解けるとは……」
暗示?
「大方彼女に暗示を掛けていたんでしょう。自分の考えの矛盾点を付かれた事で解かれたのですね」
メリーが点道を警戒しながら説明する。
暗示。
対象の意思を書き換えるレジェンズの技能の一つ。
九道さんはそれにより四隅舞踏を対象と見なしていなかっただけ。
彼女は、騙されていた。
利用されていただけだと。
「この女を利用して力を得るのも此処までか。ならば良い」
点道は空に向かい手を翳す。
「少年、お前達とは本気で戦ってやろう」
「…貴方たった一人で何が出来るというんですか」
他の三人は既に倒された。
それなのにこの余裕、自分の力に相当な自信があると言うことか?
「仰ぎ見よ。我ら四隅舞踏の奥義を」
翳された手の先、何も無い宙に、力が集まっていく。
それは少しずつ厚みと濃度を増していき、一つの形を成す。
人。
不明瞭な輪郭だが、直立するその影は正しく人型。
「立道——!」
昨日あの部屋で聞いたその名詞。
それを発すると同時に、不明瞭だった人影が鮮明になる。
右目だけを覆い隠す、罅割れた仮面を装着した男性の姿。
「…っ!!」
思わず叫びを上げそうになった。
仮面だけではない。
男性は頭の天辺から大きな罅が入っていた。
傷一つついていない、澄み切った自然な左目が逆に不自然に感じられるほど恐ろしい形相だった。