複雑・ファジー小説

#46 ( No.68 )
日時: 2012/10/27 21:24
名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)


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「あいつら……一体何を……」
 さっきからメリーと栗狐は一定の範囲を走りつつ、何も無いところに攻撃をしているだけ。
 四隅舞踏の四人はそれを傍観していた。
『恐らく幻術の類だろう。数で勝つだけの連中かと思っていたが、存外細かい事が出来るようだな』
 幻術…?
 要するに、幻覚を見せられている?
「っ、メリーたちが危ない! 助けないと!」
 そう言っている間にも、四人が二人を拘束した。
 やばい、このままでは……!
『……忘れるな、少年。心を落ち着けよ。それが勝利を招く』
「…!」
『行け。主が良かれと思う行動を取るが良い』
 言い終わる前に、俺は駆け出していた。
 いつもとは比べ物にならない、異質たる速度。
 一瞬で二人を拘束する四隅舞踏達の傍まで走り寄っていた。
『距離を狭めよ!』
「応!」
 一歩ずつ、地面に足を強く打ち付けつつ、一人目、先程戦った救道に隣接する。
 神槍が補助してくれているとは言え、ほとんど聞いたことと、映画などの見よう見まねにすぎない。
 しかし、やるしかない。
「——な」
「覇!」
 足を強く打ちつけ、勢いのまま拳を顎に打ち込む。
 震脚。
 中国武術の基本的な動作。
 強い足の打ちつけによる素早い重心移動。
 それにより瞬間的に最大の威力の一撃を放つことが出来る。
 再び頭と身体が離れ、四隅舞踏の一柱、救道は倒れ、霧散していった。
「救道!?」
「人間、貴様っ!」
 拘束を解き、此方に走ってくる小柄な少年、虎道に向かい、一歩、強く踏み込む。
 その一歩で虎道の懐まで寄り、
「っ」
 肘で胸を打つ。
 その一撃で虎道は吹き飛び、後ろの木に激突し、爆ぜる。
 次の標的は寸胴の男、線道。
「っ、舐めるな人間!!」
 襲ってくる拳を受け止め、掌を胸に当てる。
「がっ!」
 そして踏み込み、一撃。
 更に一歩、一撃。
 そして最後に、顎に一撃。
「……!」
 霧散しながら消えていく線道を、反撃の為に拘束を解いた点道に飛ばす。
 牽制の為だったが、その巨躯は点道に当たる前に真っ二つに分かれた。
 そのまま消えていく線道の奥、長い刀を持った点道が居た。
「ったく、どいつもこいつも……役立たずすぎて敵わん…」
 いつの間にか天に居た立道の首を掴み、禍々しい気を放っている。
 開放されたメリーと栗狐が走り寄ってくる。
「優輝さん!」
「二人とも、大丈夫か?」
「……問題ない」
 二人とも無事なようだ。
 まずその事に安堵する。
 しかし、状況はより厄介になっていた。
 黒く染まり、少しずつ点道と同化していく立道によりそれを確信できた。
「我は立道——。四隅舞踏の祖——」
 最後まで意味深な言葉を呟きつつ、立道は完全に消え去った。
「あれは……」
「最終手段、でしょう。恐らく連中の力の大元は今飲まれた男。だから戦うためにそれを飲んだ、と」
「そうだ。もう頼れるのは我のみ……もう蘇らせる必要も無ければ、戦闘力の無い立道のお守りをする必要も無い」
「……」
 身体の奥底が沸々と煮え滾るのが分かる。
 何というか、うん、そうだ。
「どうしようもねぇクソ野郎が……」
 何か久しぶりだ、この感覚。
「ゆ、優輝さん……?」
「……?」
 メリーと栗狐が心配しているようだが、今はどうでもいい。
 四人一組、否、五人一組の「仲間」。
 それが助け合わないという事実が、俺のスイッチを入れた。
 駆け出そうとするが、身体が動かない。
「っ、あれ…?」
『落ち着け、少年。怒りを外面に出してはいかん。静かに燃やせ』
 神槍の声が掛かり、落ち着きを取り戻す。
「……」
 そうだ、忘れてた。
 心を落ち着けろ。
 一回深呼吸をし、構える。
「さて、後は貴様らと九道を始末して終わりだ」
 俺達だけじゃなく、九道さんまで…
 絶対に負けられない。
 しかし…
「メリー、栗狐。手出しはしないでくれ」
「え、優輝さん……?」
「……」
 それだけ言って、点道に向かい歩く。
「いい度胸だ。身の程を存分に知って死ね」
 同じく歩み寄ってくる点道。
 一対一だ。
「死ぬのはお前だ、点道。仲間を捨てる悪魔め」
「はっ、九道の考えだ。仲間は裏切るものだろう?」
 一歩一歩、近づいていく。
「違う。本当は九道さんも知っている筈だ」
「どうでも良いさ。今から死ぬ人間のことなどね」
 距離が狭まっていく。
「させるか。絶対に勝ってみせる!」
「やってみるがいいさ。存分に愉しませろ」
 その言葉が、決戦の合図となった。