複雑・ファジー小説
- #47 ( No.69 )
- 日時: 2012/12/20 20:37
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
刀と素手では当然刀に利がある。
此方が攻撃を当てるために刀のリーチ内に入らなければならない。
点道の刀の冴えはかなりのものだ。
刀を防ぐ術を持っていない以上、一撃も喰らわずに懐に攻め寄り、攻撃を当てることが必須となってくる。
正直、無理に等しい。
隙が一切無いと言っても良い斬撃を避ける事が精一杯だった。
「さっきの威勢はどうした?」
挑発的に言ってくるのは此方の隙を作るためだろう。
冷静さを欠かずに状況打破する方法を考える。
メリーたちの力を借りる、論外だ。
ああ言ってしまった以上格好が付かないとかそういう理由ではない。
どうしてもこいつは俺が倒したいという俺自身の意地だ。
とはいえ、このままでは埒が開かない。
時間が経てば経つほど不利になるのは明確だ。
「……ん?」
足に何かが触れる。
黒い金属塊。
昨日九道さんから受け取った銃だ。
おかしい、昨日鞄に仕舞い込んでそれきり出していない筈だが…
いや、今はそんな事どうでも良い。
この状況を打破できる手段が見つかった。
横薙ぎに振られる刀を頭を下げて避け、そのまま銃を取るため飛ぶ。
「っ!」
意外な行動を取った俺に対処が遅れ、隙が生まれた。
銃を手に取り、点道に向ける。
間に合う。
引き金を引——
タンッ
銃声が鳴り響く。
手に持っていたはずの銃が砕け、役目を果たさなくなる。
左手を襲う痺れが一瞬、思考を掻き消す。
『少年!』
身体が動き、点道との距離をとる。
どうやら神槍が動かしてくれたようだ。
左手を押さえつつ、「それ」が飛んできた方向を見る。
とはいっても、この状況で俺に向けて銃を撃ってくる存在など一人しか考えられない。
「……九道さん…!」
壁に凭れかかった九道さんが此方に銃を向けていた。
「分かった……」
俺も、メリーも、栗狐も、点道も。
手を出すとは思っていなかった彼女の行動に目を釘付けになっていた。
「暗示なんかじゃない。私が彼らとずっと居たのは、私自身の意思」
事実を聞かされて、気付いた自分自身の意思。
「彼らとずっと戦い続けるのが私の意志。ならやはり貴方たちを殺すのが今の私がするべき事」
それが、九道さんの答え。
「——」
点道は困惑することもない。
ゆっくりと九道さんに近づいていく。
今の彼ならば、あのまま九道さんを殺すという事も十分に考えられた。
考えられた、のだが。
「答えは、得たか」
「えぇ、「あの時」の問いはこういう意味だったのね」
その会話の意図は、俺達には分からない。
ただ、一つ、
「戦うわよ、四隅舞踏。もう一度、盛大な舞踏会を」
「御衣、「我々」は九道の意のままに」
点道と分かれ、天に再び浮遊する立道。
そして再び四人となる四隅舞踏。
戦うという意思を持つ九道さん。
それらを見て、俺は状況がさらに悪くなったことを悟った。