複雑・ファジー小説
- #48 ( No.70 )
- 日時: 2012/12/20 20:37
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
「さすがにこの状況はまずいですね……、助太刀します」
メリーと栗狐が走ってきた。
もう意思がどうとか言っている場合ではない。
一人で勝てるものではない。
そういえば、栗狐はそろそろ銅貨が少ないのではないか。
「栗狐、これを」
ポケットから何枚か銅貨を取り出し、栗狐に渡す。
「……ありがとう」
銅貨を構え、臨戦態勢をとる。
さて、五対四。
いや、神槍は俺に憑依しているから五対三だと言っても良い。
この狭い場所では数で劣る此方が圧倒的に不利だ。
さらにあの四人はいくら倒しても立道をどうにかしない限り幾らでも蘇るだろう。
やるだけやってみるか、と簡単に言う訳にも行かない。
「優輝さん、私に考えがあります。少し、私から離れてください」
唐突にメリーが言う。
「考えって?」
あくまでも九道さん達には聞こえない程度の声で聞く。
「とりあえずこの状況くらいは打開できます。しかし優輝さんの安全は保障できません」
「メリー、まさか……」
栗狐はメリーが何をしようとしているかが分かっているらしい。
「えぇ、使います」
何を、と問うている時間は無いようだ。
メリーが前に出る。
「メリー……?」
「優輝さん、下がって……」
そう言われ、俺はただ従うしかない。
メリーが何をするか分からないが、今から始まる「何か」は状況を打開出来るらしい。
ただ一人で敵に近づいていくメリーを見ていることしかできない。
心苦しい。
「一人で挑むか、愚かな……」
またも挑発的な口調で言う点道をメリーは大して気にもしない。
俺達との距離より、敵達との距離の方が近くなった頃、メリーは止まる。
「一人で来るなら先に消してあげるわ。包囲」
九道さんの指示で四人がメリーを囲む。
「展開」
四人を柱とする小さな部屋。
今、現在進行形で見えない壁が展開されているだろう。
しかしそれすらも気にしないようにメリーは沈黙していた。
やがて部屋が完成したのか、四人は再び九道さんの元に立つ。
檻に囚われているも同然。
しかしその考えは、次の一瞬で消え去る事になった。
メリーがどこからとも無く取り出したのは一本の傘。
それを開くと、更なる異質は起きた。
いや、それは果たして起きたのか。
終わった、という方が正しいのかもしれない。
「……な…」
九道さんが驚愕に目を見開く。
開いた傘に呼応するように、メリーを囲んでいたはずの部屋が音を立てて砕け散ったからだ。
砕けた破片はまるで雨粒のように丸くなり、傘に付着していく。
ここまでは、脱出。
次は、反撃。
ステップを踏みながらくるくると傘を回すその姿は、見ているだけならば雨の下ではしゃいでいるだけに見える。
その動きに違わず雨粒は傘を離れ、空を舞う。
戦いの最中を思わせないその動きの真意を探っていた九道さんと四隅舞踏は、一瞬の判断が遅れた。
メリーを囲っていた部屋は、鏡のように反転した。
即ち、逆に発動者を囲む部屋として。
「これは……!」
点道が刀を振り、壁を斬る。
九道さんが銃で壁を撃つ。
線道が、虎道が、救道が。
脱出を試みるも、その部屋の主導権は既に彼らのものでは無かった。
部屋の範囲から逃れた立道自体に攻撃する術はなく、ただ何も出来ずに無表情で浮遊を続けるだけだ。
自分にとっての悪しき力を祓い、自身の力として鏡のように転写する。
「あれがメリーの武器の一つ、『宝傘』……」
栗狐が説明してくれる。
敵の能力をそのまま奪うという点からして、相応の代償はあるだろうが。
あまりにも強力と言える武器だった。
しかし、これがメリーの言う打開策の本質ではないという事実が、次の瞬間証明された。
『宝傘』の使用が、彼らを部屋に閉じ込める、時間稼ぎにしか過ぎなかったと。