複雑・ファジー小説
- #51 ( No.74 )
- 日時: 2013/01/04 20:31
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
四人はそれに対して、やはり何も言わない。
ただ、その現実を受け入れてはいるようだ。
「貴方達……どうして!?」
九道さんの問いに、立道が答える。
「俺達の本体は立道。彼の消滅は、即ち俺達の死だ」
「そんな……!」
ゆっくりと消える四人は、それでも武器を構える。
もう九道さんに言う事はない。
そういう様に目を背け、メリーに向かい合う。
「最後だ。少女よ、その力を見せてくれ」
刀を両手で握る点道が言う。
「……」
メリーは黙って、戟を構える。
「……感謝する」
線道が。
「全く、皆馬鹿だよな。……俺も、か」
虎道が。
「絆——即ち共倒れ、否、それこそ我らの友情っ!」
救道が。
それぞれの戦闘体制をとる。
九道さんはそれを見つめて、一歩近づく。
「皆、戦って」
その言葉を聞くと、四人が頷く。
何か吹っ切れたように九道さんは微笑んでいた。
「さぁ、舞踏会の始まりよ!」
『応!』
彼女を後押ししたのは何なのだろうか。
俺にはそれは分からなかったが、それを考えている間に、四人は動き出した。
身体を火の粉のように飛散させながら、メリーに向かって。
「メリー!」
叫ぶも、それに返ってくる声はない。
この悍しい邪気。
メリーのものとは思えないそれを表出させる、しかし紛れもないメリーは向かってくる敵をじっと見つめている。
「栗狐、メリーのあれは、なんなんだ?」
どうやらこの状態を知っているらしい、栗狐に聞いてみる。
「……あれは、禁忌の術。信仰の前借……」
「前、借……?」
思うにそれは、存在するための信仰を先に得て存命を図るもの。
しかし、メリーは今まで普通に存在できていた。
それに今この状況で使うには相応しくないものだ。
何よりも、発せられる邪気が、目的は存命ではないと示している。
「それは、禁忌なのか?」
「存命の効果もあるけど、真の意味は身体に容量以上の信仰を込めて一定時間の変化をすることにある……」
変化。
変わる、化ける。
あの黒いメリーは、いつものメリーが変化したものということ。
「それ、元に戻るのか?」
「しばらく時間が経てば戻る。でも……」
でも。
その言葉は、俺の不安を煽る。
「変化している間は断続的に、凄まじい信仰を消費する。それに、前借した分信仰はしばらく供給されない」
「それって、つまり……」
「……諸刃の剣」
多分喋らないのは、必要以上の力を使わないため。
立道を倒す俺のために、そんな危険な術を使うなんて。
それで尚、メリーは四人を相手に対等以上に渡り合っている。
一人が胸を突かれ、消える。
一人が額を撃ち抜かれ、消える。
一人が横薙ぎの刃によって両断され、消える。
対等以上どころではない。
圧倒的だった。
「……メリー」
俺の呟きは、恐らく聞こえない。
最後に残った点道と鍔迫り合いをするメリーはあくまで無表情で戦っている。
点道の力は残り少なく、最早勝敗はついていた。
「……」
「……」
互い無言に、それぞれの武器で応戦する二人。
力が永遠であれば、ずっと続いたかもしれない。
しかし、決着は唐突に付いた。
幾度目かの鍔迫り合いの合間、点道の刀が消失した。
恐らく点道の、刀を顕現させる力がなくなったのだろう。
そう、考え付く前に、メリーの戟は点道を切り裂いていた。
斬撃の痕から霧散していく点道。
メリーはそれを見て、戦いの構えを解く。
そして数秒、点道は仮面の中から笑いを零し、
「……見事だ」
たった一言だけ言い、倒れもせず、直立のまま、点道は消えた。
不思議の部屋を形作る四つの柱とそれを束ね、要となる本体。
最後に残った柱が今消え、不思議の部屋、「スクウェア」のレジェンズは終わりを告げた。
そして、この戦いも。
「……お疲れ様」
九道さんの、「彼ら」に対する慰労の一言で幕を閉じた。