複雑・ファジー小説

#53 ( No.76 )
日時: 2013/01/17 21:41
名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)



 〜〜〜〜〜〜

「んー、道、間違えたかな? 櫛禍のじーちゃんが言ってた町ってここだよね?」
「う、うん。その筈だけど……」
 全く、日本の町ってのはどこ行っても変わり映えしない。
 どっかしらに目印の一つや二つあれば良いのに。
「あっ! あれ、看板じゃない?」
『黒見沢』と書かれた看板を見つける。
「櫛禍様は『黒見沢町に行け』って行ってたから……間違いはないかも」
 良っし! やっぱりあたしの勘も捨てたもんじゃないわね!
「さっ! 行くよ! ヒグチユーキって人を探すんでしょ?」
「で、でもその人がどこにいるか分からな——あ! 待ってよ!」
 考えるより行動。
 これが成功の秘訣よ。
 と、

「きゃっ!」
 走りだした瞬間、肩に何かがぶつかってくる。
「痛って、何しやがる!」
 見た目だけで不良だって分かる男だった。
 どこの国にも居るのね、こんなん。
「あんたが勝手にぶつかってきたんでしょ?」
「んあぁっ!? んだとてめぇ!」
 こういう奴はすぐに頭に血が上る。
 喧嘩事なら何でも来いだけど、さすがに人間を相手にするほど馬鹿じゃない。
 出来れば何事も無く終わらせたかったのに。
「おいてめぇ! こいつの連れか!?」
 あ、飛び火した。
「え、あ、えっと……」
 口篭ってないではっきりと言えば良いのに。
 この臆病な性格は直さないといけないかな。
「ちっ、てめぇら、ちょっとこっちこい!」
 正直、これ以上の面倒事はごめんね。
「……しょうがない、やるわよ」
「え? でも、相手は人間だよ!?」
「こんなんじゃ櫛禍のじーちゃんからの頼まれごともいつまで経っても終わらないわよ?」
「え……う……」
 またしても口篭る。
 あーもう、じれったい。
「何ごちゃごちゃ言ってやがる! 早くこっちに来い!」
 こいつもうるさい。
「たまにはレジェンズらしさを見せなさい!」
 その気になれば強いのに、全くその気にならないんだから。
「……分かったよ」
 あー疲れた。
 説得だけでこんなに疲れちゃやってらんないわ。
「さ、行くわよ」
「う、うん!」


「全く、喧嘩も大概にしてよ……」
「はいはい。善処しますよー」
「反省してるの……?」
「勿論してるって。さ、今度こそ行くわよ」
「はぁ……本当にリヒトは喧嘩っ早いんだから……」
「シャッテンは引っ込みがちすぎんの!」
 そんな会話をしながら、目的の人を探す。
 この町もそこそこ広そうだし、時間がかかりそうだけど、まぁ、のんびり行こうか。

 〜〜〜〜〜〜

 メリーを櫛禍さんに預けて三日が経った。
 未だにメリーは帰ってこない。
 あれだけの力を使った後だ、たった三日で動けるとも思わない。
 しかし、気になってしょうがない。
 栗狐は「櫛禍様に任せておけば問題はない」と言っていた。
 彼が信頼できる存在である事はもう分かった。
 今頃、何か手を尽くし、メリーの復活を手伝ってくれていることだろう。
 あの日の夜、夢子が来た。
 どうやら神槍の顕現には夢子の補佐が必須らしく、それ自体夢子は大変だそうで、一旦神槍の顕現を解除した。
 夢子曰く、また新たなお友達を連れてくるらしい。
 メリーの事は言わないでおいた。
 学校の皆には所用というかたちで誤魔化している。
 それも三日となれば皆疑い始める。
 朝のホームルームを終え、メリーの安否を俺に聞いてくる人は多かった。
「風邪じゃないの?」
 心配の声に「大丈夫」と返し、
「もしかして死ん」
 妙に的を射る様な発言を殴って中断させ、
「あの日か!? アノ日なのか!?」
 思春期男子の妄想にはスルー。
 対応にも結構神経を使うものだがやはりメリーの安否は心配だった。
 結果的に授業もあまり集中できない。
 気が付けばその日の授業が終わっているという状況だった。
「優輝、大丈夫か? 今日全然集中できてなかったじゃないか」
 竜生が心配してくる。
 こういった時にこういう心配をしてくれる友人はありがたく思える。
「あぁ、大丈夫だ」
 さっさと荷物を纏め、帰ろうとする。
「優輝!」
 そこに声を掛けてくるのは災厄こと琴吹 凛だ。
「なんだ?」
 てっきりメリーの心配でもするのではと思っていたが、凛が言う言葉は予想外なものだった。
「今から暇? 遊びに行かない?」
「……」
 遊び心を忘れない、子供らしいというか。
 精神面で成長しない幼馴染に呆れる。
「ごめん、ちょっと予定あるから……」
 本当は無いが、メリーが戻ってくるまであまり遊ぶとかそういう気にはなれない。
「……あっそ」
 疑いの目を向けてきた凛だったが、意外と早く引き下がった。
 いつもはしつこく誘ってくるのだが。
 まぁ面倒な事にならなかったのはありがたい。
 そんな事を考えているうちに荷物を纏め終わり、帰路についた。