複雑・ファジー小説

#54 ( No.78 )
日時: 2013/02/16 20:53
名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)



 いつも賑わっている筈の商店街に人一人歩いていない、と気付くのは早かった。
 気味悪い、と感じる前に察したのはレジェンズ特有の寒気の様な感覚。
 その気配は商店街の中から発せられていると思い、半ば自然とその中に足を踏み入れていた。
 しばらく進んでも、誰一人いない。
 この時間なら学生達で盛況している筈の人気ファストフード店にさえ。
 というより、どの店を除いても店員すらいない。
 やはり偶然ではない。レジェンズによって引き起こされた異常だ。
 商店街の真ん中ごろに差し掛かった頃。
「っ……!」
 寒気の様な感覚が強くなってきた。
 それが感じられるのは老舗の和菓子屋。
 そして、見つける。

「んー、日本のお菓子も結構美味しいわね」
「り、リヒト……無断で食べたらマズいって……」
 商品棚に置かれた和菓子を躊躇い無く食べる少女と、それを止めようとする少年。
 少女は黒髪、少年は白髪。
「シャッテン、このキンツバとかいうの凄く美味しいわよ」
「いや、だからね」
「あ、このヨーカンってのも美味しい」
「いや、あの」
「モナカってのも中々いけるわ」
「……」
 少年は諦めたようで、店内に設置された椅子に寄り掛かる。
 と、そこで店の扉の前で立っていた俺と目が合った。
「……」
「……」
 数秒、沈黙が続いた後、はっと気付いたように此方に駆けて来る。
「あ、あの、もしかしてヒグチ ユウキさんですか?」
「えっ」
 彼らから発せられていた気配から察するところ、レジェンズであることは間違いない。
 しかし何故俺を知っていたのだろうか。
 メリーが言うにはレジェンズの間では俺は割と有名らしいが。
「そう、だけど……」
「やっぱり! リヒト、見つかったよ!」
 リヒトというらしい少女に向けて少年が言うが、
「ワラビモチ……これもいける……!」
「……」
「……」
 少年は溜息をつく。
「えっとですね。メリーちゃんの事で櫛禍様から言伝があって来ました」
「メリーの!?」
 櫛禍さんの名前が出てきたのも驚いたが、メリーの知り合いということにさらに驚いた。
「はい、メリーちゃんの容態は回復に向かっています。全快も結構早いかと」
「そうか……」
 メリーの事は心配無さそうだ。
 一旦は安心する。
「それと、ユウキさんの護衛を頼まれました」
「護衛?」
「はい、ユウキさんは短期間でレジェンズと関わりすぎている事に気付いていますか?」
 考えても見れば、メリーと出会ってまだ一週間程度ではなかったか。
 確かにたったこれだけの期間でレジェンズに会った回数が多すぎる。
「これから先、恐らく貴方を中心として何か良くないことが起きるだろうと櫛禍様が言っていました」
 既に起きすぎている様な気もするが。
「それで君達が?」
「はい、えっと、僕はシャッテンと言います。シャッテン・ツヴァイです」
 シャッテン・ツヴァイ。
 何のレジェンズだろうか。
「それで、あの子は?」
 店内で未だに和菓子を頬張っている少女を指して聞く。
「あ、あぁ……僕の妹です」
「妹?」
 兄妹のレジェンズというのもいるのか。
「はい。リヒト!」
 少年、シャッテンが少女、リヒトを呼ぶ。
「ん! このドラヤキ……バター入り。凝ってるわね……!」
「……」
「……」
 しっかりしているが弱気そうな兄と、どうやらマイペースな妹。
 何となく心配になる。
 口いっぱいに和菓子を頬張るリヒトを見て、二人揃って溜息をついた。