複雑・ファジー小説

Re: 戦場の小夜曲 ( No.3 )
日時: 2012/08/18 03:08
名前: never ◆4J/i82X6vM (ID: .MCs8sIl)

第一章「東京防衛戦」

第一話


曇天の空、埃染みた空気。
数年前に建築完了した東京の象徴である、スカイツリーが燃える。
火の化身を呼び起こしそうな勢いで燃える、この世で一番の炎の柱と化している。

そして、降りやまぬ雨音と———銃声。


「り……ろ! ……ろ!」

「———しっかりしろ! 前を見て無ェとあっと言う間に死ぬぞ!」

迷彩罹った軍服を身に、背には重火器——ロケットランチャーを背負った男性が、同じ遮蔽に身を隠している右隣の青年を肩を乱暴に掴み、引き起こす。

青年は、まるで別世界に魂を置いていて、不意にこちらへ帰ってきたかのように意識を取り戻し、手に持つM16——アサルトライフルを構える。

今も鳴り止まない銃声は、彼らの居る向かいからも聞こえる。
云わば、交戦状態だ。
立ち並ぶ高いビルに挟まれた道路。
見慣れた看板は燃え、信号や電柱は大きく傾いている。
道路の所々にポッカリと空いている大穴、一面に散っている大小様々な瓦礫が、戦闘の激しさを物語っている。

男性と青年と同じ装備をした者——臨時非正規軍は、広く横に展開している。
彼らも遮蔽となるコンクリートの壁から身を出して射撃しては、直ぐにしゃがんで身を隠し、を繰り返している。
度々、断末魔と共に仰向けに倒れ行く者もいるが、周りはそれを気にすることは無い。
否、気にする余裕など無かったのだろう。

「くそッ、有り得ねェ! どんな身体してやがんだ! 直撃させたはずだぞ!?」

ある兵の撃ったライフルの弾丸は、確かに彼の者の急所を捉えたはずだった。
人間であれば、頭部、首部など、急所となる箇所を何らかの形で負傷した場合、絶命に至るのはそう遠くない。
しかし、対峙している者達は、違った。
人間の姿を盗った、別の何かなのだ。

「在って堪っかよ…こんな奴らがよォ!」

痺れを切らし、腰元に携えていた近接戦闘用装備——アサルトナイフをくるくるっと回し、逆手に持った者が駆け出す。
瓦礫まみれの地を蹴り、勇ましく突撃している。彼の者へ向けて。