複雑・ファジー小説
- Re: 戦場の小夜曲 ( No.4 )
- 日時: 2012/08/18 03:07
- 名前: never ◆4J/i82X6vM (ID: .MCs8sIl)
第一章「東京防衛戦」
第二話
青年——北原悟史(キタハラサトシ)は、焦っていた。
思えば、今手に持っているM16を初めて手にしたのは、僅か1ヶ月前の事。
成績が良いわけでも、特別スポーツが出来るわけでもない、平凡な学生として都内の高校へ通っていた。
ある日、突如、知る由も無く、彼は銃を手に持たされた。
それは悟史が例外だったわけでは無く、彼の周りの者もそうだったのだろう。
実際、悟史の両隣で同じく両手銃を構えている者の中には、彼と同年代だと思われる顔つきをしている者は少なくない。
「おい、ボサッとしてんじゃねェよ。 ……来るぞ、構えろ!」
悟史の隣の男性の一声で、陣営に居る者が一斉に射撃体勢を取る。
連続して鳴る銃声が、今も降り続く雨音に掻き消される事無く響く。
然し彼の者達は、立て続けに浴びせられる銃弾に怯む事無く、只々、ライフルを構えながら近づいて来る。
誰一人として足を止めることは無く、ゆっくりとこちらへ足を進めて来ている様子は、とても悍ましい。
数としては、こちらの陣営——人間の方が圧倒的に多い。
それもそのはず、彼の者は多く見積もっても、百単位には及ばない。
「わけわかんねェ……。 なんで効かねェんだよ!」
いつの間にか、彼の者に零距離まで接敵された男性が、泣き叫びながら我武者羅に銃弾を振り撒く。
装備は同じような防弾チョッキを着込んだ戦闘服の筈なのに、彼の者達はまるで鉄の塊かのように、金属音を立てながら銃弾を弾く。
男性の頭部が、彼の者の手によって鷲掴みにされる。
一見、人間と同じ造りだが、爪は今では流行らない一世代前のギャルのように長く、何処となく冷酷だ。
頭を掴まれた男は、「放せ! 放せ!」と泣きの混じった叫びを必死に繰り返しながら、もがき出した。
恐怖、絶望、逃げ出したい。
人間は、絶命する前に長い時間をかけて生前の記憶を巡るようだが、この男性がそうだったかは誰も知る由が無い。
グシャァ、と言う生々しい音と共に、男の頭部が破裂した。
握り潰されたわけだが、破裂と言う表現が正しいのだろう。
ドサッ、と重たい音を立てて、男の身体が地に捨てられた。
辺りにはバケツから放られたように血が撒かれ、直ぐに黒色に染まった。
その後も、続けて接敵され、次々と倒れ行く……否、消えて行く者達。
いとも簡単に消える生命。
そして、悟史とその隣の男性が身を隠していたコンクリート壁の傍からも、彼の者が現れた。