複雑・ファジー小説
- Re: 戦場の小夜曲 ( No.5 )
- 日時: 2012/08/18 03:11
- 名前: never ◆4J/i82X6vM (ID: .MCs8sIl)
第一章「東京防衛戦」
第三話
彼の者を間近で見てみると、やはり人間のような容姿をしていた。
黒い戦闘服に身を包み、右手には片手銃、左手はグローブが外れていて……ワザと着けていないとも推測出来るが、肌色をした五指を握っては開いている。
悟史にとってその様子は、獲物を抉り取ろうとしている化け物のように見えた。
人間のようで、人間ではない。
先の光景を思い返せば、とてもそうとは思えないのが常だろう。
悟史の下へやってきたのは、肩まで伸ばした銀髪に整った顔、身長も高く、平たく言えばイケメンだった。
こんなヤツがクラスに居たら、間違いなく全ての女子生徒の憧れの象徴だったのだろう、と、悟史は思ったのかもしれない。
先ず、彼の者が狙いを定めたのは、悟史の隣にいた男性。
悟史とツーマンセルを組んでいた者だ。
勿論、男性は背後へ廻り込もうと足を進め始めた彼の者に向けて発砲する。
言動からも推測出来るように、腕のある兵だ。
悟史とは違い、元々この職の人間なのだろう。
精確無比な射撃、非の打ちどころなど無い完璧な射撃によって放たれた銃弾は、全て彼の者の胴部へ命中した。
しかし、その力も簡単に無力となってしまう。
やはり銃弾は通らず、キンキンと言う金属音と共に地に落ちてしまった。
「ぐぅ……ぐがッ!」
背後を取った銀髪の者は、片手銃の銃身で男性の頭部を打ち、よろけたところを左手で男性の首を掴み、身を持ち上げる。
この剛力が一体何処から放たれているのかは、分からない。
悟史は、震えながらも銀髪の者へ向けてM16の銃口を向ける。
両手でしっかりと構え、捉えるのは頭部。
銃弾が通用しない事を理解していても、他に成す術が無い。
加えて、自身に振りかかる重圧感、殺意、絶望感。
周りの仲間達…が次々と、一瞬で消えて行く様を見て来た悟史は、最早「殺される」と言う感情に包まれていた。
「——!」
唇が紫色になり、眼光が徐々に失われている男性から、悟史は微かに視線を感じ取った。
逃げろ。
必死に訴え掛けている様子だが、それでも悟史の体は動かず、今も銀髪の殺戮者の頭部にM16の銃口を向けている。
トリガーを引きたくても、引く事すら出来ない恐怖が体を縛っている。
それが、災いしたのだ。
『銃を向けたら、撃て……』
一瞬だった。
銀髪の口元が動いたかと思うと
パァン、と言う発砲音と共に、悟史の視界がぼやけて行く。
見えたのは、灰色に染められた、曇天の空。
次にモザイク罹った視界に入ったのは、銀髪……先の殺戮者。
そして、最後に見えたものは、自分に向けられた片手銃の銃口だった。
