複雑・ファジー小説

Re: FlowerSpirits 〜戦場に狂い咲け〜 ( No.5 )
日時: 2012/09/14 20:23
名前: バチカ (ID: LuHX0g2z)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode


 「……。」
 いきなり現れた女性の顔を少しの間だけ見ると、無気力な少年は視線をもどす。
 「あるぇ?なんで隠れてたか訊かないの?」
 きょとん、として彼女は問う。自分が隠れていたことに対して少年はまったく無感動だったから。普通ならば誰かが隠れて自分を見ていたら、驚いて問いただすもの。そう思うからだ。
 少年は彼女の問いに、こくりと頭を縦に動かすだけ。
 
 少しの沈黙の後、女性は再び少年に問うた。
 「なんで訊かないの?」
 「……興味がないのさ。」
 「え?」
 「……。」
 ぼそぼそとか細い声が聞こえたが、なんといっているのかははっきりとは聞こえなかった。聞き返してももう少年は答えなかった。
 なんだか、居た堪れない。
 なんとなく思ったことだ。無表情で無感情そうなこの少年と二人きりの空間は、間が持たない。まるで、地蔵に話しかけているようで不気味。
 (あっちから、何で隠れてたのとか聞いてくれたら、何とか話せそうなんだけどな…えっと、会話を……会話をしなきゃ!!)
 ふと、彼の足元に置いてある、何かが目に付いた。
 「えと……それはなあに?」
 茶色い布が細長い何かを包んでいるようだ。恐らくそれを地面に立てたら少年よりも背が高いかもしれない。いったいなんなのだろう?少年の白くて細い手が、それにそっと触れた。
 「まあ……大事なものだよ。」
 その声は、はっきりとこちらまで伝わった。
 「大事な物?」
 「そう。」
 「それ、なに?」
 「言わないよ。」
 中身が何なのか知りたいのに、抽象的な言い方で誤魔化されたような気がした。
 「え〜、なんなの〜〜!」
 焦らされるのがたまらないという様に、むしゃくしゃしたような声を出す。
 「ね〜え〜…。」
 そう言って、相手の肩をがたがた揺さぶってやろうと思った。ただ、ちょっとふざけてみただけだったのに。

 「触るな……!!」

 彼の声色に、初めて感情が宿った。
 声色は明らかに怒気を含んでおり、こちらを見る目も冷たくなる。少しも表情を変えない人。だから、彼女にしたら初めて見る表情は微笑みだとか、温かいものがよかったのかもしれない。なにを間違えてこうなってしまったのだろうか?