複雑・ファジー小説
- Re: 【今夜も】夢を綴る【いい夢を】 ( No.94 )
- 日時: 2015/10/02 10:56
- 名前: 空とぶくじら (ID: 9yCTBNZC)
はちじゅういっこめ。
「嗚呼、またこの夢だ」
夢の中で目覚め私はまた昨日と同じ言葉を零す
目の前には遠くまで広がった刺繍糸で作られた草原
奥の糸は若々しい緑色で私の足元に来るにつれて青みを帯びた緑になっていた
正面にはまるで水墨画で描かれたような桜の大樹が神々しくそびえ立っている
最初の頃は綺麗な色だった桜も今では赤黒く錆びた色になっている
木の前には誰かが立っていて声も上げずに泣いていた
その「誰かさん」が零した涙が地面に触れるたび私は少し気持ち悪くなってしまう
「お願いだ、泣かないでくれ」
そう声をかけても小さい泣き声は止まず
私は今日もこうやってこの夢が終わるんだと思っていた
だが今日は違った
相手のことを見ながら一度だけゆっくりと瞬きをすると
「誰かさん」はその場から消え
足を誰かにつかまれ地面の中に引きずり込まれてしまった
刺繍糸の間をするすると抜け
辿り着いたのは何もない場所だった
どこを見ても白く、先ほどまであんなにあった刺繍糸の草原もなくなっていた
上を見ても下を見てもどこを見ても白い空間に混乱した
しばらく周りを見ていると「誰かさん」がこちらを向いて声を発した
「私はお前の声が好きだった」
「姿が好きだった」
「中身が好きだった」
「お前がどれだけ卑屈になろうと死にたいという言葉を述べようとも」
「私にはお前しかいないんだ」
「お前を愛しているんだ」
「時々怖がらせるようなことをして悪かった」
「もう私は、お前と私の区別がつかなくなってしまった」
「夢で逢う事がこれほどまでに嬉しいこととは思ってもみなかった」
「ありがとう」
「混乱させるようなことを言ってしまってすまない」
「私はいつも見ているよ」
「卑屈なお前を見ているよ」
述べられた言葉を聞いてやはりここは夢なんだなと思った
子供のように吠えるように泣きながらも「誰かさん」から目を逸らすことは決してなかった
「私もお前を愛しているよ」
そう言いたかったが涙が邪魔をし言葉が出ない
何もない空間、一人で涙をただ拭うだけだった
「さようなら私、明日も会えると嬉しい」
「誰かさん」は泣くのを堪えるように口元に手を当て言葉を放った
その言葉は矢となり弓となり
「誰かさん」を貫いた
その場で花火のような音が上がり地面に細かなビーズが散乱した
今夜もさよなら、誰かさん
おそらく明日は、違う夢