複雑・ファジー小説

Re: アセンション ( No.10 )
日時: 2012/09/30 13:48
名前: デミグラス (ID: .bb/xHHq)

「大統領、2人を連れてきました」
「あぁ、分かった」
 2人が入室したのを確認し内側から扉を閉めたマクナマラが声を掛けると、組んでいた両腕を解放しながらケネディがそう言って振り向く。
 大統領と国防長官。一市民とは地位は雲泥の差があるが、人間として見れば何の変哲もないやり取り。
 しかし、この一連のやり取り、今どういう状況なのか、これから告げられることがどれほど重要なことなのか、現役軍人である2人にそれを感じさせるには十分だった。

「2人とも、よく来てくれた」
 そう言いながら近付いてきたケネディは、両者の顔を交互に見て、何かを悟ったように小さく頷くと、まずライアンに右手を差し出す。
「お会いできて光栄です、大統領」
 戦場とはまた違った緊張の中、ライアンも右手を差し出し、握手を交わしながら挨拶する。
 そして、ケネディがゆっくりと頷くのを確認してから手を戻すと、ケネディは次にデイビッドに顔を向け、同じように握手を求めた。

「どうも」

 無愛想な挨拶でケネディと握手を交わすデイビッド、その顔は少々引き吊っている。
 元々、目上の相手と話すのが苦手な彼は、その相手の地位が高ければ高いほどすぐ顔に出てしまう。
 別に、その人物に対して嫌悪感を抱いているわけではなく——もちろん相手が生理的に嫌いな場合も少なくないが——気を使うという礼儀的建前が苦手なのだ。
 軍隊を完全な縦社会と勘違いし、上司の者に萎縮ばかりして意志疎通を弊害する者よりはマシではあるが……
 ついこの間、ベトナムのケサンに赴いた時も、こんなことを言っていた。
「目上の奴に気を使うのは、そこらで爆弾を解除するよりよっぽどストレスが溜まる。」