複雑・ファジー小説
- Re: アセンション ( No.15 )
- 日時: 2013/01/25 20:24
- 名前: デミグラス (ID: IvmJM/UO)
1961年 4月17日 キューバ首都ハバナ市
「……イア……」
微かに光が差し、目前に人影が見えたのと同時に、途切れ途切れだが声が聞こえてきた。
「……ラ……アン……………ライアン!!」
その叫び声と共に、一気に視界が開ける。
30分前……
一陣の涼風により、生い茂る草木が微かに揺れる小高い丘に、4人の人影。
大統領直々に命を受け、現在潜伏中の彼らを含めた辺りを包みこむ静けさは、現在ピッグス湾で攻防が起こっていることを忘れさせ、同時に奇妙な恐怖感を覚えさせる。
現場諜報員による事前の調査で、カストロが潜伏していることが判明した隠れ家。
そこは4階建てで、一般の家なら5戸分ほどあるだろう全幅を誇っていた。
これといった装飾はされておらず、一切の塗料が使われていない外壁は、木本来の姿が剥き出しになっているなど非常に素朴でシンプルな造りだが、隠れ家という割にはそれなりの大きさがある木造建築物だ。
「あれが隠れ家……なんかムカつきますね」
丘の上からその全貌を眺めているカールが、冗談混じりに吐き捨てる。
「余裕があったらついでにぶっ潰して帰るか」
カールの後ろに立ち、彼の頭の上から覗きこむように建物を眺めているデイビットが、カールを更に煽るように冗談混じりでそう口にする。
「心配しなくても俺たちが乗り込んだら、嫌でも勝手に潰れるだろうよ」
2人に対して、ターゲットの潜む豪華な穴蔵には特に興味がないのか、周辺に神秘的な、オレンジの光を浴びせる夕焼けの空を仰ぎながら葉巻を吹かすライアンが、空気の読めない者の如く、真剣さを物語る低トーンで呟く。
「3人とも冗談はそこまでだ。連絡が入ったぞ」
さすがは現役の軍人たちと言うべきか、軍用無線機に終始耳を傾けていたダニエルが声をかけた瞬間、空気がピリッと切り替わる。
連絡先の相手はキューバ亡命者の1人で本作戦の協力者でもあるアルベルト・ブランコ。
カストロの政権転覆によりアメリカに亡命してきたキューバ人は多数おり、その殆どは、カストロによる一党独裁制に反感を抱いた者たち。
その中でも特に強く反発していたブランコは、この作戦のターゲットがカストロということだけで、協力に自ら名乗りを挙げたほどだ。
そんな彼の役割はオペレーションZEROの脱出手段を用意することと、その支援。
「ブランコは、あの隠れ家から北に500mほど先にある飛行場に、脱出用の航空機を紛れ込ませているらしい。カストロから情報を引き出した後、すぐにその飛行場に向かう」
ダニエルが無線機を介して受け取った情報を3人に伝える。
「それじゃあ出来る限り急がないとな」
葉巻を口元から離してライアンが紡いだのは、脱出手段を失わないためという意ではなく、ブランコたちの身を案じての言葉だった。
恐らく敵軍に化けて待機しているのだろうが、キューバ軍からすれば飛行場は重要拠点だ。それ相応の数の兵士が配備されているだろうし、大将のいる拠点に敵が侵入したと分かればそれだけ用心深くなる。長時間感付かれずにいるのは厳しいだろう。