複雑・ファジー小説

Re: アセンション ( No.21 )
日時: 2013/01/26 13:05
名前: デミグラス (ID: IvmJM/UO)

 猛スピードで建物へ向かう4人は、今にも自分の足と足が絡まり転びそうになるほど、必死で坂を下っていく。
 しかし、中盤に差し掛かった頃、ツーマンセルの見回り兵の1人が静寂に流れる異音を聞き取り、こちらに視線を移す。

「いたぞ!!アメリカ兵だ!!」
 疾走する中でそれを聞いたライアンは、その言葉に微かな違和感を覚えたが、気にしている場合ではなかった。ライアンとカールは速度を上げ、残りの2人と間隔を離しながら、見回り兵たちの方向へ進路を変える。
 対して2人の敵兵は慌てて所持していたAK-47の照準を向かってくる脅威に向け発砲し始める。
 幾多の弾丸が織り成す、砲煙弾雨の中を突っ込んでいく2人。
 銃弾が体を掠めることなど日常茶飯事だが、頭では分かっていても体が無意識に恐怖で包みこまれる。その痛みを知り、弾丸にうち倒れていく仲間たちを、直に見てきたからこそだろう。
 そんな感情にせき止められるかのように2人は目に見えて失速していく。

 その頃、後方の2人にも予定外の出来事が起こっていた。
 先程の敵兵の声を聞き、駆け付けてきた兵士が建物の正面入り口から現れたのだ。

「アイツが邪魔だ! このままじゃあの方法は無理だぞ!」
 発砲音と、自らが切り裂き、奏でていく風音に掻き消されないよう、声帯ギリギリまで高めた声量でデイビットがそう叫ぶ。

「……よし、アイツは俺がやる! その代わり絶対外さないでくれよ!」
 ダニエルがデイビットに優るとも劣らない叫び声を発し、更にペースを上げて下っていく。
 彼は3人の海兵隊員とほぼ同等の基礎体力と、優れた運動神経を持ち合わせている。
 そのため、紙一重で外れていく弾丸に怯むように、スピードを落としている前の2人との距離をドンドン詰めていき、ついには場所こそ違うが、同じラインに並んだ。
 そして坂を下り終え、建物への道のりの最後の小さな崖に到着した3人は、そのまま勢いを殺すことなく地を強く蹴り、大きく前方に飛び上がる。
 空中でM1911の遊底を引き、その手を離す。バネの力により最初の弾薬が薬室に送り込まれ、撃鉄が動く。
 この動作を3人は同時に行い、ダニエルは入り口前の兵士に、ライアンとカールはそれぞれジャンプした彼らに驚きを隠せない見回り兵の頭部に銃口を向け、ブレの激しさをものともせずに引き金を搾った。
 撃鉄が雷管を打ち、鉛の塊が勢い良く放出される。弾丸はそれぞれのターゲットの脳天を見事に貫通し、哀れな3人の敵兵は、確たる抵抗も出来ずに後ろに倒れる。
 敷地内の制空権に侵入した3人は、目標を排除した約3秒後に受け身を取りながら着地し、天から地へと侵入域を拡大する。
 そして、そのまた数秒後、崖から大ジャンプした最後の男の両手にはそれぞれ違う種類の手榴弾が握られていた。
 飛び上がってすぐ、彼は両手に持っていたスタングレネードとフラググレネードの安全ピンを抜き、正面入り口に開いた口へとそれを投げ込む。
 手榴弾が内部に入り込んだと同時に彼も着地、全員の侵入が完了。

 正面玄関を入って最初の部屋の中、侵入者が現れるだろう入り口に意識と照準を集中させていた複数の兵士たち。
 しかし、入り込んできたのは2つの小さな物体。少し経ってからその正体に気付いた兵士たちは、恐怖と焦りから叫び声を上げながら逃げようとしたが、時既に遅し。スタングレネードが破裂し、部屋全体を強力な光で包み、敵兵の視界を奪う。そのすぐ後、逃走を遮られた兵士たちをフラググレネードの第2波が襲う。